なぜ、IoT×人工知能で“住みよい街作り”ができるのか:あなたの隣の「人工知能」
ビジネスからゲーム、メディア、医療、行政の分野まで、あらゆるところに進出し始めているIoTと人工知能。この技術は私たちの暮らしや働き方をどのように変え、どんなビジネスチャンスを生み出すのか――。今回は街作りとの関係を見ていこう。
ビジネスからゲーム、メディア、医療、行政の分野まで、あらゆるところに進出し始めているIoTと人工知能。この技術は私たちの暮らしや働き方をどのように変え、どんなビジネスチャンスを生み出すのか――。今回は街作りとの関係を見ていこう。
スマホ向けサービスの利用状況から街の混み具合を可視化
「せっかくのドライブが、混雑のせいで台無し……」――。昨今、そんなストレスを回避するサービスが相次いで登場している。例えばヤフーが「Yahoo!地図」アプリで提供している「混雑レーダー」も、その1つだ。
これは、街の混雑状況を地図上にマッピングすることで、今、どこが混雑しているかをリアルタイムで把握できるようにするサービス。混雑レーダーを見れば、これから出かけようとする場所が混んでいるかが一目で分かる。
このサービスでは、Yahoo!関連アプリの利用状況から各地の混雑状況を推定しているという。Google Mapsの渋滞情報も同じような方法を採用しており、携帯電話から場所情報と移動速度情報を匿名化した上で収集し、これらの情報から渋滞状況を推定して表示している。
渋滞情報はこれまでも道路交通情報通信システム(VICS)を使えば、リアルタイムで把握することができたが、VICSが取り付けられている道路のみの情報しか集められず、Google Mapsのようにどの道路の情報でも把握できるというわけにはいかなった。渋滞や混雑といった街の様子を、目的地に行く前にリアルタイムで手軽に把握できるようになったのは、まさにスマホの普及のおかげだといえるだろう。
コネクテッドカーが街の移動をスムーズに
あらゆるものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)時代を見据え、自動車会社やITベンダーが競って開発を進めているのがコネクテッドカーだ。コネクテッドカーは、自動車にインターネットの通信機能を付加したもの。2014年の時点で世界における稼働台数は1350万台に達しており、2025年には約5倍の6547万台まで伸びるといわれている。
コネクテッドカーは、場所情報や速度情報などのプローブデータのほか、アクセルの踏み込み具合や車間距離、ステアリングなどの制御データ、路面状況、他のデバイスやアプリとの連携の情報を配信する。例えば、他のコネクテッドカーによって得られた交通情報から迂回路を発見し、交通量を分散するようなことが可能になれば渋滞が減り、スムーズにドライブできるようになるだろう。
コネクテッドカーは今後、渋滞緩和だけでなく、危険予知や交通事故の防止などの面での貢献も期待されている。
“シェアサービス”で街がスマート化
ここまで紹介したサービスは、“路上を走る車の分配を最適化する”というアプローチによる効率化の事例だが、一方で、人やモノ、自動車の絶対数を減らすことも移動の流れの効率化に必要な要素だ。
例えば、“路上の車の絶対量を減らす”にはどうすれば良いのだろうか。その解決策として挙げられるのが、モノやサービスなどの資源を「シェア」をするという方法だ。
快適に使えるシェアリングサービスを実現するにあたっては、必要な時、必要な人にモノやサービスが行き渡る必要がある。例えば、誰かが使っているから、使えないという状況は排除しつつ、限られた資源を効率的に割り当てる必要がある。
シェアリングサービスの代表格である自動車配車サービスのUberは、既に相乗りサービスで効率化に向けた取り組みを始めて注目を集めている。こうした相乗りのような形で車をシェアできるプラットフォームが整えば、自動車の稼働台数を大幅に減らすことができ、道路の混雑も軽減できるはずだ。
とはいえ、スムーズな相乗りを実現するのは難しい。それは多様なドライバーとさまざまなニーズを持つ乗客をマッチングするのが極めて困難なためだ。相乗りといっても必要な車種や目的地、到着時間は乗客によって異なり、そのニーズに合った的確なドライバーを組み合わせるには、非常に複雑なマッチングをしなければならない。これを解決するために必要なのが、ドライバー(シーズ)と乗客(ニーズ)の情報をマッチングする人工知能などのアルゴリズムなのだ。
リアルタイムで刻々と変わるニーズやシーズのマッチングは、人工知能の得意分野。街のスマート化においてシェアリングエコノミーは切り札の1つであり、このシェアリングエコノミーを支える技術こそが、人工知能というわけだ。そして人工知能で街を最適化するのに必要なデータは、IoTで流通するようになるのが今後のトレンドといえるだろう。
著者プロフィル:中西崇文
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授/主任研究員。1978年三重県生まれ。筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。独立行政法人 情報通信研究機構を経て現職。専門はデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析。著書に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)
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