クラウド導入で負担が減ったフジテックの情シスがやっている仕事(3/3 ページ)
クラウド導入で仕事が減った情シスはどうすればいいのか――。そんな課題に取り組んでいるのがエレベーター大手のフジテックだ。新たな役割を担った情シスは今、どんな仕事で現場に貢献しているのか。
情シス部門の改革で現場はどう変わったのか
―― 情報システム担当者に求められるスキルも、以前と変わったのではないでしょうか?
友岡氏 最も重要なのは、足が動くかどうかですね。足が動かない人材もいるんですが、動かすようにしなければいけない。その後に、心が動くと私は言っています。現場スタッフの痛みが分かる人、解決しなくてはならないという課題意識を持てる人が重要だと思っています。
技術的なスキルは勉強すれば何とかなります。困りごとを解決したいという動機があれば、技術的なスキルの壁は容易に突破できると考えています。
―― 情シススタッフの役割が大きく変わった例はありますか
友岡氏 1人の情シススタッフの例がありますね。私が情報システム部門に入った時、彼女はバッチのプログラムを延々と作っていました。なんという人材のミスマッチなんだと思って本人に聞いてみると、もともとユーザビリティに非常に興味があって、勉強もしていたんです。人の働き方を変えることにも興味を持っていました。
ちょうど働き方を変えるためのチームを立ち上げていたので、そこに彼女を異動させました。その部門ではまず、1カ月半ほど現場の手伝いをしてもらいました。エレベーターのメンテナンスなど、何でもやりましたね。
そんな中、これから点検先に行くという時に、「どうしてこの人たちは点検先の地図を、その都度印刷して持って行くのだろう」とか、「いちいち電子メールを印刷して持っていくんだろう」と疑問に思ったんですね。
当時は、モバイルに比べて機動性に劣るノートPCを持って点検先に向かっていたので、紙に印刷していたんですね。コンシューマーITではスマホとGoogleマップを使えば簡単に行き先を調べられるのに、企業のITは、オンプレの世界でしか動いてなかったから機動性がないままなんです。
そこで、「これをすればこう解決できる」「こうすればこの人のカバンの中身は半分になる」「そもそもカバンを持つのは重いし、カバンを軽くすることでその人の仕事がもっとラクになる」という視点で、課題を見つけていきました。仕事に先回りして、情報が準備されているような、そんな風に現場を変えたいと思ったんです。
情シスが業務現場に“スムーズに入っていく”ために
―― 業務の性質の違いを考えると、情報システム部門のスタッフが現場に入っていくのは難しかったのではないでしょうか。
友岡氏 自分から現場に飛び込める人と、飛び込めない人がいますが、やっぱり飛び込まなきゃいけないんですよ。
現場のシステム改善で大事なのは、「顔が見えるところに情報システム担当を置くこと」、これだけです。フジテックでは、さまざまな部門に情報システム担当用のサテライトオフィスを作って、そこにスタッフを常駐させたいと思っています。
現場のスタッフと一緒に働きながらいろいろな話を聞いていれば、いやでも現場のことが分かってきます。それが分かれば、ITを使ってどう改善すればいいかが分かってくるはずなんです。
情シスについては、アウトソースすべきといった意見もあれば、内製でやるべきといった意見もありますが、現場の人から見たら、誰だっていいんですよ。横に誰か助けてくれる人が座っていれば、どこの人だっていい。情シスの組織の問題は、本質的には顔が見えるところで仕事しているかということだと思うんです。
実際に物を作っている人や営業の最前線にいる人、建設現場で働いている人、エレベーターのメンテナンスをする人といった、“顧客との接点の最も重要な部分”は、意外と情報システム部門がカバーできていないのです。
そういう意味では、個別具体的な現場の課題に対してソリューションを提供するのが情報システム部門の役割だと思うんです。「ルールだからこれを使ってください」というのではなく、現場の課題に最適化したソリューションを提供する必要があります。
それを個別にゼロからスクラッチで作っていたら間に合わないので、プラットフォーム化したものの中でツールを組み合わせたり、足したり引いたりして提供するわけです。こうしたソリューションを提供していかないと、企業の情報システム部門の価値がなくなってしまうと思います。
―― 情報システム部門の仕事を変えたことによって、現場からはどのようなフィードバックがありましたか?
友岡氏 これまでは、PCでリポートを出すために事務所に帰らなくてはならなかったのがその必要がなくなったり、朝のメールチェックをBYODのスマホから通勤時にできるようになったりした結果、残業が減って家族と接する時間が増えたと喜んでいる人がいましたね。
また、現場スタッフがさまざまな創意工夫をしてITツールを使うようになりました。Google Appsのフォームやサイトを使って、ビジネスアプリ的なものを作る人も出てきています。
そういう意味では、全社員が情報システムに関わる人であり、ユーザーでもあり、私たち情報システム部門の仲間でもあり――というようになってきていますね。まさにこれが、ITのユーティリティ化だと思っています。
著者プロフィル:御手洗大祐
rakumo代表取締役社長。1996年 日本電信電話株式会社に入社。約3年に渡り電子商取引システムや企業間取引システムに関する米国ベンチャー企業との共同開発に携わる。その後、ネオテニー(当時)、バックテクノロジーズ代表取締役を経て、日本法人であるシーネットネットワークスジャパン代表取締役社長に就任。 2005年に同職を退任後、同社非常勤取締役に就任(同年10月に退任)。同時期に日本技芸(現・rakumo)を設立。
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