第28回 アムロにガンダムを持ち出された地球連邦みたいにならないための機密情報管理術(前編):日本型セキュリティの現実と理想(2/3 ページ)
「機動戦士ガンダム」は最新兵器のモビルスーツの盗難、不正使用から話が始まる。今回は主人公のアムロがガンダムをなぜ持ち出せたのかを例に、機密情報の定義やどう守るべきかを考察したい。
ガンダムの盗難防止対策
この時にアムロがガンダムを持ち出すプロセスを見ると、操作マニュアルを見ながらとはいえ、簡単にコックピットのハッチを開き、システムや動力も一発で起動させている。一見すると、ここが問題のように感じる方も多いだろう。コックピットに鍵ぐらいかけておいた方がいいし、生体認証などを使うことなども科学技術が進んでいる「宇宙世紀」であれば必須だろうと考えるのも当然だ。
しかし、これらの対策はあまり的を射ているとはいえない。なぜなら、兵器を本番で使うシチュエーションはコンマ何秒を争うような非常時だからだ。現代でも戦闘機や戦車などには本格的なセキュリティシステムなどがほとんどない。緊急時に鍵を取りに行く動作や、生体認証が何らかの理由で不整合になり戦力が稼働できなくなるタイムラグが発生する可能性がある。つまり、兵器としてはそのようなリスクを回避し、非常時に利用しやすくするというのが正しい仕様だ。
それでは、兵器(ガンダム)の盗難防止はどうすればよかったのだろうか。一番簡単な方法は、人間やモビルスーツなどが物理的に入れない場所に保管することだ。
ごくシンプルながら、情報ではなくモノを管理しているのだから、そこへの不正侵入を防止することが根本的な解決方法に近い。「持ち出されたくない対象へ接近させない」というのは、情報セキュリティでは少々時代遅れと言われてしまう境界防御だが、モノを持ち出すには人間などが潜入するリスク、そのモノが大きく、重量があるものなら輸送のための車両、場合によっては重機のようなものが必要になる。そのため、モノを守る物理セキュリティでは、十分に有効な方法なのだ。
この場面では、ガンダムをホワイトベースへ移動する隙を突かれているので仕方がない部分もあるが、それでも意外と簡単にリスクを低減できる方法がある。それは、コックピットを兼ねている内蔵型戦闘機「コア・ファイター」を別に搬送することだ。
ガンダムの構造は、コア・ファイターを中心として上半身の「Aパーツ」、下半身の「Bパーツ」に分けることができる。つまり、AパーツやBパーツを持っていかれてもコア・ファイターが盗まれなければ、操縦系周りの機密を守ることができるし、なにより分離された状態のAパーツやBパーツは、それ単体では動作しないので運びにくい。
持ち出す対象は、身長が20メートル近くもあるモビルスーツのパーツなのだ。上半身や下半身だけでも約10メートルはあるはずだ。持ち出す方もモビルスーツならば、これを運ぶのは可能だが、保管されているコロニーには地球程度の重力がある。数十トンもある重量物を運び出すことは難しく、隠密裏にできないと当然反撃されるだろう。そのため、さらに持ち出しの難易度が上がってしまうのだ。
アムロがやったような、そのまま操縦されて持ち出されることを防げれば、それだけでリスクを大幅に低減できるだろう。
この方法は、実戦配備している機体であれば稼働率に影響を与える可能性があるので難しいが、試作機であればこの対応で十分だろう。情報などと異なり、重量もかさむ巨大なモビルスーツという現物(モノ)を外部に持ち出すというのは難易度が高く、持ち出す側に相応のリスクが付きまとう。
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