第29回 アムロにガンダムを持ち出された地球連邦みたいにならないための機密情報管理術(後編):日本型セキュリティの現実と理想(1/3 ページ)
「機動戦士ガンダム」は最新兵器のモビルスーツの盗難、不正使用から話が始まる。今回はアムロによるガンダムの持ち出しを許した地球連邦側のずさんな重要機密の管理体制から、さらに考察を深めていこう。
ガンダムの管理が“ずさん”だった理由
前回は、「機動戦士ガンダム」の主人公アムロが、地球連邦政府の最新機密であるガンダムを持ち出せてしまった背景やその対策について述べた。しかし、そもそも連邦政府のガンダムの管理が“ずさん”だったのは明確な理由があったのだ。それは、ガンダム自身が機密情報と見なされてなかったことだ。これは、第一話で敵に攻撃を受けた際の対応がお粗末だったからだけではなく、その後もかなりの期間、放置され続けたことから推察することができる。
もし、その情報が重要な機密情報として管理されており、その情報が敵に捕捉されて攻撃を受けたとなれば、それを守るために直ちに援護部隊を投入するはずだ。しかし実際には、ガンダムを積んだホワイトベースは襲撃を受け避難民となった民間人を移送するというハンデを背負わされ、自力で故郷の「サイド7」から(離れた味方の拠点であるルナツーまで)脱出しなければならなかったのだ。
しかもその間、アムロは戦闘訓練を受けた軍人がほとんどいない状況で戦わないといけなくなる。連邦政府は、その名が知れていた「赤い彗星のシャア」が全力で追撃している状況をつかんでも、アムロらに満足な支援を提供しなかった。そして、何とか連邦軍の拠点にたどり着いても、アムロが敵からガンダムやその他の最新モビルスーツを守ったことも評価されない。しかも、その後の地球への航行にも、一切の護衛がついていない冷遇ぶりである。
アムロたちはその後も機密を守る役目どころか、すぐに連邦軍の拠点などを追い払われてしまう有り様だ。むしろ地球連邦政府がアムロを無用な厄介者として扱う描写も多い。弾薬の補給など最低限の支援以外は、ストーリーの半ばを過ぎた第二十三話に届けられた新兵器「Gパーツ」の到着を待たなければならない。
さらに、第一話で亡くなったと思われていたアムロの父親でガンダムの設計者、ティム・レイの連邦政府からの扱いもそのことを裏付けている。アムロの父は最新兵器を開発する技師で士官でもあったが、第一話での戦闘の際に宇宙空間に放り出され、酸素欠乏症が起因すると思われる障害を抱える。その後、アムロは父と再会するが、その時の父親は連邦政府から何の保護や管理も受けることなく、非常に粗末なアパートで独り暮らしをしていたのだ。これは圧倒的な性能を持つ最新兵器を完成させた功労者の扱いとはとてもいえない。さらに、敵がこの技術者を拉致して機密情報を盗まれるというリスクも全く考慮していなかったことも、併せて示しているのだ。
つまり、ガンダムは連邦政府にとって重要機密ではなかった。ガンダムの重要性が認識されたのは、敵がガンダムに対して最重要のターゲットとして扱っていることが判明した後だ。ただし、その頃には既にガンダムが圧倒的な戦果を挙げており、もはや機密を通り越して、重要な戦力であることも併せて認識されていたはずである。
敵からの情報と戦果という実績の2つがそろって、保守的な連邦政府もしぶしぶガンダムの重要性を認めざるを得なかった――というのが本当のところかもしれない。
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