第31回 「ポケモンGO」まで来たITの進化とその先にあるIoTの衝撃:日本型セキュリティの現実と理想(3/3 ページ)
各種メディアをにぎわしているIoTは、日本も国を挙げて推進しようとしているほどの大きな潮流となりだした。今回から何度かにわたって、セキュリティはもちろん、このIoTの本質や課題、その将来性などを記す。まずはIoTの本質から考察したい。
人の行動を変える本当の主役
そして、この「人の行動を変える」ことの本当の主役はIoTだ。先に述べたようにIoTは、これまでサイバー空間に限定されていたITの活用範囲を、現実世界を含む広大な世界に広げることになるだろう。
これまでのITは、PCやスマートフォンなどの画面の向こう側にあった。しかし、IoTはサイバー空間の出来事が画面を飛び越え、目の前にある現実世界と融合するのだ。スマートフォンなどのアプリケーションがいつでもどこでも使えるようになったような状況が、今度はスマートフォンの画面を介さない現実世界においても可能となるだろう。そうなると、私たちはそのサービスによるメリットをコンピュータやシステムを意識することなく自然に受けられるようになっていくのだ。
例えば、よく言われる例として、家の設備(風呂やトイレ、キッチンなどの水回りや家電など)が故障する前に予め設置されたセンサが予兆を検知し、故障や問題が発生する前に解決してくれるようなことが可能となる。
また、このようなことは自動車などにもそのまま応用できる。メンテナンスの自動化や運転の自動化が実現することで、目的地まで早く確実に移動できるようになるだろう。さらには、自動車同士が相互に連絡を取り合い、速度と燃費のバランスが取れた最適な調整をしながら走行してくれる。それでいて、交通法規に違反することもない。自動車同士が走行ルートを照会し合うことで交通渋滞や交通事故と無縁の世の中になるかもしれない。そうなると、もはや人間は最終的な意思決定をするだけになる。そして、意思決定のための情報は、全てIoTの仕組みで最適なものを提供してくれるようになる。
ただし、これらが行き過ぎると、非常に賢いAI(人工知能)が人間を支配するSF映画のような世界になってしまうとの懸念も出てくるかもしれない。だからといって、IoTによって人間を介さないさまざまなモノによる緊密な連携がもたらす新しい社会への進化が阻害されるとは思えない。なぜなら、これまでモノの中に留まっていた情報を現実世界の人々の生活に活用できれば、IoTは世界に豊かな未来をもたらすことができる。よほど深刻な課題が見つからなければ、既に動き始めたこの流れを止めることはできない。
再びIoTとは何か?
筆者が学生だった1990年代は「IT革命」などと持てはやされ、インターネット普及による輝かしい夢のような将来像が声高に叫ばれていた。しかし、20年ほど経った現在でもそれらの全てが実現されているわけではない。
しかし、IoTとAIやその他技術の進歩、アイディアなどが昔に描かれた夢のような将来像を今度こそ実現するかもしれない。そして、その中心は他でもないIoTだ。かつて産業革命に匹敵するといわれたIT(当時はそれをIT革命などとも呼んだ)がもたらす社会変革がようやく現実のものになると、筆者は信じている。
セキュリティの連載でありながら、今回はIoTのセキュリティに一切言及することなく文字数が尽きた。IoTはあまりに重要かつスケールの大きなテーマであるだけに、最大の課題であるセキュリティについて述べるまでに少々説明を要した。次回からはIoTのセキュリティについて迫っていきたい。
武田一城(たけだ かずしろ) 株式会社日立ソリューションズ
1974年生まれ。セキュリティ分野を中心にマーケティングや事業立上げ、戦略立案などを担当。セキュリティの他にも学校ICTや内部不正など様々な分野で執筆や寄稿、講演を精力的に行っている。特定非営利活動法人「日本PostgreSQLユーザ会」理事。日本ネットワークセキュリティ協会のワーキンググループや情報処理推進機構の委員会活動、各種シンポジウムや研究会、勉強会などでの講演も勢力的に実施している。
- TechTarget連載:今、理解しておきたい「学校IT化の現実」/失敗しない「学校IT製品」の選び方
- 著書「内部不正対策 14の論点」(共著、JNSA/組織で働く人間が引き起こす不正・事項対応WG)
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