電気がなくてもデータは消えない、メモリ技術の最新事情:「ムーアの法則」を超える新世代コンピューティングの鼓動(3/3 ページ)
前回は現在のコンピュータのアーキテクチャが抱える問題点とその回答の1つとして新しいアーキテクチャを紹介しました。今回は特にポイントとなる記憶領域について、詳しく解説します。
これらかの不揮発性メモリ
最後に、次世代の不揮発性メモリについて紹介します。IntelとMicron Technologyが共同開発している「3D Xpoint」について耳にした方も多いでしょう。残念ながら詳しい内部機構は明らかにされていませんが、今後レイテンシが向上すればユニバーサルメモリーの候補になると思われます。その方式として3つほど紹介します。
1つ目は「Phase-Change Memory」というものです。これは、半導体薄膜に熱を加えて冷やした時の構造の違いによる抵抗値の違いを利用して記憶する方式です。半導体薄膜に、急速に熱を加えて急速に冷やすと、アモルファスという状態になり、高い抵抗値になります。しかし、ゆっくり温めてゆっくり冷やすと、結晶構造をとるようになり、この場合は抵抗値が低くなるのです。この差をデジタルの0、1に置き換えてビットを保持します。再度熱を加えない限り状態は変化しないため、データの保持に電気が必要ないメモリということになります。
2つ目は「STT-MRAM」という、電流をかける方向でフリーの磁性層の電子スピンの回転方向を変える方式です。STTはSpin Transfer Torqueの略です。参照磁性層と言われる一定方向に電子スピンが回転している層と、このフリー磁性層のスピン回転方向が同じか異なるかで抵抗値が変わり、この違いを利用してビットを保持します。こちらも電流を再度流さない限りは情報が失われにくいため、データの保持に電気が必要ないメモリということになります。
3つ目は私の所属する会社が開発したメモリスタに代表される「ReRAM」です。先の2つの方式と同様に、抵抗値の違いを利用する点は一緒です。例えば、メモリスタでは酸化チタン(TiO2)を利用します。強めの電流をかけることでTiO2の一部がTiO2-xのようにイオン化し、抵抗値が変わります。この違いを利用してビットを保持します。この方法は電流のかけ方によって無限に抵抗値を変化させることができます。そのため別の用途の可能性も考えられますが、また別の機会にご紹介しましょう。
これら次世代の不揮発メモリの技術は、今後数年で実用化が期待されているものばかりです。この中からレイテンシと容量単価が要求を満たすものがユニバーサルメモリーを構成する候補となるでしょう。次回はユニバーサルメモリーをより広範に利用することが可能になる伝送技術のフォトニクスについて触れたいと思います。
三宅祐典(みやけ ゆうすけ)
日本ヒューレット・パッカード株式会社の「The Machineエバンジェリスト」。Hewlett Packard Enterprise(HPE)の中央研究所「Hewlett Packard Labs」が認定するエバンジェリストであるとともに、普段はミッションクリティカルなサーバ製品を担当するプリセールスSEとして導入提案や技術支援を行う。ベンチマークセンターのエンジニアとしてHP-UXとOracleデータベースの拡販支援やサイジングを担当後、プリセールスエンジニアとして主に流通業のお客様やパートナー様の提案支援を経験し、現在に至る。
趣味はスキー、ダイビングといった道具でカバーできるスポーツ。三宅氏のブログはこちら。
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