電気回路の課題を解決できる? フォトニクスの伝送技術:「ムーアの法則」を超える新世代コンピューティングの鼓動(1/2 ページ)
不揮発性メモリの進化と同様に、信号の伝送に使うフォトニクス(光工学)も研究が進められてきました。不揮発性メモリにより階層化を排除した記憶領域は、より進んだ伝送技術によって広範に利用できるようになります。今回はフォトニクスによる伝送技術について解説します。
過去数十年、コンピュータで使われる信号の伝送は、外部通信の一部を除いて銅線上を流れる電子を利用してきました。それをフォトニクス――つまり、光に変えると、どんなメリットがあるのでしょうか。
光と聞けば、まず速度が注目されます。SF映画の世界でも、光の速度を超えられないという前提は崩されていませんから、誰もが「光は速い」と考えます。速ければレイテンシー(遅延)が少なくなると期待される方もいるでしょう。しかし、実はレイテンシーの減少が伝送を光に変える主たるモチベーションではありません。
「光」に変える目的
物質中の光の速度は、素材の屈折率で変わります。チップ上に実装するような方式だと、その速度は光速cの3分の1ほどになります。これは短い距離の銅線上を通る電子とほぼ同じ速度です。
現在、光通信のメインである光ファイバだと、光速の3分の2程度になります。これは1メートル進むのに5ナノ秒ぐらいかかります。1秒間に地球を7周半する光の速さは、ナノ秒の世界では充分に影響が出る要素になりますから、フォトニクスにおいて導通路の素材が重要になってきます。しかし、それでもレイテンシーはその他の要素で解消できることが多く、これらの研究は昔から行われてきました。
速さよりも銅線上に電子を流す通信では解消できない問題が2つあります。その2つとは、エネルギー消費とシグナルインテグリティ(信号品質)であり、それこそが光に変えるメリットなのです。この2つの問題の解消に加えて、さらに3つ目のメリットもあります(後述)。
光に変えるメリットの1つ目は、「エネルギー消費」です。1ビットの伝送に要するエネルギーという指標があります。光の場合は、このエネルギーが距離に関わらず一定になります。
銅線上の電子の場合はこうはいきません。必要なエネルギーは、距離に比例して増えていきますし、距離が長くなればその二乗に比例してレイテンシーまで発生してしまいます。光の場合は、光の発生時にだけエネルギーを必要としますが、発生した光信号は導通路のはるかに遠くにまで届き、その間に消耗してしまうことはありません。
2つ目の「シグナルインテグリティ」のメリットは、電気信号の高速化よって、伝送中に信号が劣化する現象の解決です。
信号品質が劣化する理由は、主に3 つあります。まずは「反射」です。一見して一様に作り込まれている信号経路ですが、電気的にみると必ずしもそうではありません。何らかの要因で経路中にインピーダンスの異なる部分があると、その差異の大きさによっては信号の反射が起こります。反射波が混ざってしまえば、伝送信号は大きく歪むことになります。
次に「ロス」です。一般的に伝送線路は、信号の低周波成分を通すことができ、逆に高周波成分はあまり通せないという、ローパスフィルタになってしまいます。このため、比較的長い距離の伝送ではデジタル信号の高周波部分が失われて、正しく情報を伝えられなくなってしまいます。
最後が「クロストーク」です。異なる伝送路同士の間隔を十分に広くとれない場合、一つの伝送路を伝わる信号のエネルギーが隣り合う経路に移ってしまう現象です。これが発生すると、やはり電気信号は大きく歪むことになります。コモディティ化しても電気的な特性により善し悪しがでる電気回路は、伝送する信号が高速になればなるほど、この信号品質の問題がより出てきます。電気回路である以上、これら問題からは逃げられませんが、光にすることで本質的に問題が無くなります。
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