AIとシンギュラリティが情報セキュリティに何をもたらすか:ハギーのデジタル道しるべ(1/2 ページ)
ITの世界でAIやAIがもたらす「シンギュラリティ」が話題だ。世界が激変するかもしれないこの兆候を現在の人間はどう受け止めるべきだろうか。
最近、ちまたでは「AI(人工知能))と「シンギュラリティ(技術的特異点)」が、時代の先端キーワードのとして急浮上しはじめた。実は筆者が主査(責任者)を務める日本セキュリティ・マネジメント学会の「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」で、2014年の7月と8月に、シンギュラリティがテーマの研究会を2回開催した。
7月の研究会では、米国シンギュラリティ大学のエグゼクティブ・プログラムに参加された学会の理事で筆者の友人でもある佐々木健美氏が、8月の研究会では日本シンギュラリティ協会(旧科学技術特異点協会)の広口正之氏が講演された。筆者は仕事の関係で直接お聞きできなかったが、資料や佐々木氏との会話から、AIやシンギュラリティに関する知見の先進性に驚き、その後独学で知識を吸収した。
実はAIについては、30年ほど前に「人工知能学会」の事務所にまで話を聞きにいったことがある。当時は情報処理学会の論文にもその手の内容が散見されるほどだったが、AIの限界は筆者の予想にはるかに及んでいないことが分かり、静観の構えでいた。改めて最近の動向を知り、「こんな急成長をしたのか!」と驚いている状況だ。
こういう経緯からこれらのキーワードと筆者が住む「情報セキュリティ」の世界に、何か融合点があるのではないかと考えるようになった。現在は「サイバーセキュリティ月間」の中でセミナーを開催しているが、つい先日も大学生と思われる人から、このシンギュラリティとAIについて質問が来た。
やや前置きが長くなったが、本題の結論を先に言うと「これらに夢のような期待をまだすべきではない」――である。その理由を紹介したい。
少し前に、プロ棋士がカンニングの疑いで一時的に対戦ができないことがあった。その疑いは晴れたものの、疑われたカンニングの方法はAIソフトを使って次の手を教えてもらうという、ちょっと前までは考えられなかったものだ。AIが問題の可能性とここまで騒がれるようになったのは、ある意味でAI技術の成長ぶりを示す出来事だとも言える。
筆者が話を聞いたあるプロ棋士は、プライドを賭けて「真剣勝負」をしているという。しかし定石とは全く異なる「AIに勝つための定石破り」が存在し、通常の棋士なら将来的にそういう「邪道?」を多々実践する可能性があるだろうと語っていた。
人間なら「愚かな一手」と思うものも、AIはその一手を真剣に分析するはずである。その「愚かな一手」がしきい値を超えるほどのものだったら、AIは大きな計算違いを引き起こす可能性があり、そこに人間の付け入る隙があるという考えだ。その「AI専用の禁じ手」が10年後には評判になるかもしれない。
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