“コンプラ”を理由にクラウドを使わない時代は終わったのか:Azure漫遊記(2/2 ページ)
個人情報の扱いなど、企業コンプライアンス(法令順守)の重視から、オンプレミスサーバにこだわる企業も少なくない。だが、クラウド上の個人情報保護や特許にまつわる問題への対応は確実に進んでいる。パブリッククラウドの1つ「Microsoft Azure」では、これらの問題を未然に防ぐための施策を数多く用意している。
クラウド上の特許訴訟を防ぐ「Azure IP Advantage」
パブリッククラウドの普及は、知的財産(IP)訴訟をも招いている。
Microsoftによると、過去5年間に米国で起きたパブリッククラウド関連の特許訴訟の数は22%増加し、賠償金の中央値は約700万ドル。NPE(特許不実施主体:特許を事業で実施しない団体)によるクラウド関連特許の購入数も35%増と、クラウド上での特許訴訟リスクは増加傾向にあるという。
そのためMicrosoftは、Azure利用者を保護するサービスとして、2017年2月に「Azure IP Advantage」を発表した。これは、既存の顧客防御の対応範囲拡大や、新たな対応を組み合わせたサービスである。
以前からMicrosoftは、知財訴訟リスクに対する保護を行っていたが、Azure IP Advantage開始に伴い、同社製品に加えてAzureに取り込まれているオープンソース製品も対象に加えた。これは、Azure上の仮想マシンやアプリケーションでオープンソースソフトウェアが多数用いられる現状に対応するためだ。対象はMicrosoftのAzureサービスを利用する全顧客となる。
興味深いのは、NPEなどによるIP訴訟への対策だ。Microsoftが所有する1万件の特許から1件の特許を顧客に譲渡し、仮に裁判が起きた場合は相手を反訴するといった法的戦略を可能にするというもの。基本的にはAzure利用者全てが利用できるが、過去3カ月間Azureを月に1000ドル以上利用し、過去2年間以内にAzureのワークロードに関して他の顧客に対するIP訴訟を行っていない利用者が対象となる。
さらにMicrosoftが将来的にNPEへ特許を譲渡した場合でも、IP訴訟などAzure利用者へ権利を行使しないことを確約させるという。
Azure IP Advantageは発表して間もないため、実際の利用状況などは明らかにされていないが、顧客からの問い合わせは多く、特に製造業関係から強い関心が寄せられているという。また、IP訴訟となると大手企業が念頭に浮かびがちだが、スタートアップなどの新興企業にも有益となるだろう。
このようなサービスをMicrosoftが行う理由は、クラウドの透明性確保するとともに顧客を保護し、パブリッククラウド市場での存在感を高めようとしているからだ。
クラウド市場でトップの座を狙うためには、顧客に安心して使ってもらえるクラウドの提供が欠かせないという戦略判断から、CSゴールドマークの取得やFISC(金融情報システムセンター)の安全対策基準準拠、今回紹介した各種施策を推し進めている。
IT業界で長い歴史を持つMicrosoftが多くの訴訟を受けてきたことは、齢(よわい)を重ねた読者諸氏の方ならご存じだろう。同社がこれまでの知見を生かして顧客を守るために提供するAzure IP Advantageは、ユニークであると同時にパブリッククラウド事業者としての真剣味の現れといえよう。
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