「クラウドは安くもないし、速くもない」――それでもマツダがAWSを導入した理由:AWS Summit Tokyo 2017(1/3 ページ)
AWSの年次イベント「AWS Summit Tokyo 2017」でマツダが登壇。CAEにクラウドを採用した背景、そしてクラウド導入で気を付けるべきポイントを語った。
今やシステム構築の選択肢として当たり前になりつつあるクラウド。最近では、自動車業界が熱い視線を送っている。コンピュータで製品の設計や事前検討を行うCAE(Computer Aided Engineering)分野で、クラウド活用のニーズがあるためだ。
ロードスターやデミオ、アクセラといった人気車を展開するマツダも、CAEのためにクラウドを導入した企業の1つだ。衝突時のシミュレーションに活用しているとのことだが、彼らはこう語る。別にクラウドは安くもないし、速くもない――。
そんな同社が、それでもクラウド導入に踏み切った理由はどこにあるのだろうか。
リソース不足に悩む研究者たち
マツダでCAEの研究を行っている小平剛央さんは、深刻なコンピューティングリソースの不足に悩まされていた。高性能かつ軽量なフレームを設計するには、部品の材質や形状、厚さといった諸条件を変化させながら、目標の重量や強度をクリアする最適な解を探すため、大規模な並列処理が必要となる。
もちろん、社内にはオンプレミスのスーパーコンピュータがあるものの、近年、CAEで解析する領域が拡大するにつれて、計算量も増加。膨大なコンピューティングリソースを使う最適化計算を行うときは、オンプレミスのリソース上限を超えてしまうことも多かったという。
「本当にどうしようもないときは、長期連休中など他の部署が動いていないときに、IT部門の人にお願いして、スーパーコンピュータのリソースを借りるといったこともありました」(小平さん)
今回、次世代車両の軽量化計算に向け、どうにかして、オンプレミスの上限を超える分のリソースを確保できないか……そんな相談を受けた同社のIT部門が目を付けたのがクラウドだった。しかし、クラウドを検討し始めた2015年ごろは、導入の可能性は全くと言っていいほどなかったという。その大きな理由は“圧倒的なコスト差”にあった。
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