人工知能で不動産ビジネスを変える――楽天出身のベンチャー「ハウスマート」の挑戦:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(2/4 ページ)
IT化や効率化が遅れ、ユーザーの利益を優先できない構造になってしまった不動産業界。そんなビジネスモデルを変えようと挑戦する「ハウスマート」。その代表を務める針山さんは、不動産業界を一度離れ、IT企業に勤めたことで得た経験から起業に踏み切った。
楽天での経験を基に「ハウスマート」を起業
針山さんが楽天で行った仕事は、マーケティングリサーチやWebプロモーション、システム改善など多岐にわたる。楽天会員から得られる膨大なデータを、どう事業に生かすかを考え続けた。
「不動産業界はトップダウンの風潮が強かったのですが、楽天はエンジニアが多かったこともあって自由闊達な雰囲気でした。ボトムアップで課題を解決する姿勢がありますし、ユーザーに支持されることをサービスの原則としています。不動産もこういうスタンスで臨めたらいいと思いましたね」(針山さん)
こうして楽天で得た経験を基に、針山さんはハウスマートを起業。昨今、不動産売買で伸びている「中古マンション」に目を付け、マンション売買Webサービス「カウル」を2016年3月にリリースした。彼が目指すのは、不動産業が抱える課題をITの力で解決し、真にユーザー本位で売買を進められるようにすることだ。
「新築マンションの価格は上がる一方で、マンション売買の主戦場は中古に移りつつあります。昔建てられた物件なので立地が良かったり、価格がリーズナブルだったりと良い物件が多いのですが、一方で探すのは非常に難しい。新築と比べて、横並びでの比較が難しく、営業の工数も多いです。そのため、過去にどういう売買がなされてきたかといったデータが重要になるのです」(針山さん)
人工知能で業務を自動化、コストダウンをユーザーへ還元
カウルの特徴は、これまで人力でやってきた業務をデータ分析を背景に自動化し、コストダウンを図った点にある。まず、サービスに属性情報や希望の情報を登録すると、サービス側が自動で提案してくれる。中古マンションが過去どのような価格で売られてきたか、いくらで賃貸に出されてきたかといったデータを公開して、ユーザーが見られるようにし、人工知能(機械学習)を用いて適正価格を算出している。
「弊社では今、売買価格のデータを1000万件程度持っており、立地条件や部屋の広さ、周辺物件との比較といった要素から、機械学習で適正価格を出しています。業務を自動化することでコストや仲介手数料を下げるとともに、見学や対面でのヒアリングを通じて、お客さまにとって最良の物件を精査するという、コンサルティング業務に営業の力を集中できる。不動産の新たな業態を作り出せると考えています」(針山さん)
業態としてはあくまで不動産仲介なので、街の不動産屋と仕事は大きく変わらない。しかし、物件の提案に加えて内覧依頼、質問、購入申し込みまで、全てサービス上のメッセンジャーでやりとりできるため、Webサービスやアプリだけで完結する。
基本的に自社物件を持たず、アプリと自社メディアを中心に集客。物件見学の申し込みもサービスを通じてユーザー自身が行うなど、徹底したインバウンド戦略でコストを下げ、プラットフォーマーとしての立ち位置を狙うビジネス構造だ。売買金額が大きければ、仲介手数料も膨らむため、カウルを使うと百万円単位で購入費用が下がるケースも珍しくない。サービス開始から2年弱で、会員数は1万2000人を突破。順調にユーザー数を増やしているという。
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