人工知能で不動産ビジネスを変える――楽天出身のベンチャー「ハウスマート」の挑戦:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(4/4 ページ)
IT化や効率化が遅れ、ユーザーの利益を優先できない構造になってしまった不動産業界。そんなビジネスモデルを変えようと挑戦する「ハウスマート」。その代表を務める針山さんは、不動産業界を一度離れ、IT企業に勤めたことで得た経験から起業に踏み切った。
ITの真の威力と、エンジニアのスゴさに気が付いた
不動産企業、楽天と複数の企業を渡り歩いてきた針山さんだが、環境が移っていく中でITに対する見方も変わってきたと話す。
「今になって、ITがビジネスに与えるインパクトがこんなにも大きいものなのだと感じています。楽天にいたころは、既存事業の規模が大きかったため、例えばコンバージョンが1%上がったといっても、あまり実感できない部分がありました。
それが今だと、物件の提案のアルゴリズムが改善されるだけで、内覧の申し込みがバンバン来るようになる。自分たちが考えたアイデアが、ITを使うことでお客さまに提供する価値としてダイレクトに響く。レバレッジが効くという点で技術のすさまじさを感じています」(針山さん)
IT活用の形が変わったのとともに、チームワークの形も変わった。楽天時代は部署で“縦割り”になる傾向が強かったが、今ではビジネスの知見を持った人と、エンジニアリングの知見を持った人、そしてデザインの知見を持った人が、膝を突き合わせて考えるチーム作りを進めている。
「ビジネスとテクノロジーとデザインをきっちり融合させていく。そのために一番大事なのは、エンジニアへのリスペクトだと思っています。日本の会社って、成功体験を蓄積して、そのベストプラクティスを学んだ人間がたくさんいる組織が強い、と考える風潮があると思っているのですが、技術革新のペースが上がっている今、昨日までの成功を捨て去って、新しい方法を考えることがどのビジネスでも重要なのですが、それを体現しているのがエンジニアだと思っています。
新しい技術を勉強したり、会社を超えて知識をシェアしたり、一番良い方法を突き詰めたり……これからの時代には必須の考え方だと思います。それを踏まえて、ビジネスサイドの人間もエンジニアも一緒になっていいものを作る意識が重要でしょう。だから非エンジニアであっても、最低限の技術の知識は必要だと考えています」(針山さん)
針山さん自身も技術を学び直し、今では非エンジニアの経営陣を全員プログラミングスクールに通わせているというから驚きだ。考え方を共有しやすくなるという効果は上がっており、今後は全社にこの取り組みを広げることを検討している。簡単なアプリを作れるレベルを目指させるそうだ。
「ユーザーを喜ばせることには全職種で意識をそろえられているので、無用な衝突が起きにくいですね。顧客満足とマネタイズのポイントがずれると、どっちを優先するかという議論も起こりがちですが、サービスの質を高めることが、顧客のニーズに合致して、収益にもつながる――ビジネスとしてこの3つが一直線に並んでいるため、お互いが協力し合えるのだと思いますね」(高松さん)
ビジネスとテクノロジーを融合させ、純粋に顧客のニーズだけに向き合えるサービスを作り上げていく。さまざまな企業を経て、ITの真の威力とエンジニアと協力する必要性に気付いた針山さん。急成長を続けるハウスマートの裏側には、デジタルビジネスで成功するためのヒントが詰まっている。
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