「天才を殺す凡人」から考える 大企業でイノベーションが起きないメカニズム(1/3 ページ)
パラダイムシフトの時代、社内変革の必要に迫られている企業が増えている。しかし、変革を主導する人が道半ばで“殺されて”しまうことも少なくない。変革の火を消さないために企業ができることとは。
この記事は北野唯我氏のブログ『週報』より転載、編集しています。
「どうして、人間の創造性は、奪われてしまうのだろうか」
「天才」と呼ばれる人がいる。天才は、この世界を良くも悪くも、前進させることが多い。だが、彼らは変革の途中で、“殺される”ことも多い。それは物理的な意味も、精神的な意味も含めてだ。
以前から、そのメカニズムを解き明かしたいと思っていた。そしてようやく分かった。
天才は、凡人によって殺されることがある。そして、その理由の99.9%は「コミュニケーションの断絶」によるものであり、これは「大企業がイノベーションを起こせない理由」と同じ構造である。
いったい、どういうことなのか?
「天才と秀才と凡人」の関係
天才と秀才と普通の人(=凡人と定義)の関係を整理すると、次の図のようになる。
まず、天才は、秀才に「興味がない」。一方で、凡人には意外にも「理解してほしい」と思っている。
なぜなら、天才の役割とは、世界を前進させることであり、それは「凡人」の協力なしには成り立たないからだ。加えて「商業的な成功」のほとんどは、大多数を占める凡人が握っていることも多い。さらにいうと、幼少期から天才は凡人によって虐げられ、いじめられてきたケースも多く、「理解されたい」という気持ちが根強く存在するからだ。
だが、反対に、凡人の天才に対する気持ちは、冷たいものだ。
凡人は、成果を出す前の天才を認知できないため、できるだけ排斥しようとする傾向にある。この「天才→ ←凡人」の間にあるコミュニケーションの断絶こそが、天才を殺す要因である。
コミュニケーションの断絶が起こる理由
そもそも、コミュニケーションの断絶は「軸と評価」の2つで起こり得る。
- 軸――その人が「価値」を判断する上で、前提となるもの。絶対的
- 評価――軸に基づいて「Good」や「Bad」を評価すること。相対的
例えば、あなたが「サッカーが好き」だとしよう。そして友人はサッカーが嫌いだとする。
2人はけんかをした。このときのコミュニケーションの断絶は「評価」によるものだ。具体的には、相手の考えに対して「共感できるかどうか」で決まる。「鹿島アントラーズが好きだ」という評価に共感できればGoodであり、共感できないとBadである。
だが、この「評価」は、変わることがある。
例えば、あなたと友人は夜通し語りあい、あなたは「鹿島アントラーズ」の魅力をPowerPointで説明したとしよう。友人は、その話を聞いてとても共感したようだ。このとき、「Good or Badという評価」が変わったわけだ。
このように、Good or Badという評価は相対的である一方で、「共感できるかどうかで、決めること」は絶対的なものだ。「評価」は対話によって、変わることがあるが、「軸」は変わることがない。従って、「軸が異なること」によるコミュニケーションの断絶は、とてつもなく「平行線に近いもの」になる。
そして、天才と秀才と凡人は、この「軸」が根本的に違う。
天才は「創造性」という軸で、物事を評価する。対して、秀才は「再現性(≓ロジック)」、凡人は「共感性」で評価する。
より具体的にいうと、天才は「世界を良くするという意味で、創造的か」で評価をとる。一方で、凡人は「その人や考えが、共感できるか」で評価をとる。
従って、天才と凡人は「軸」が根本的に異なる。
本来であれば、この「軸」に優劣はない。だが、問題は「人数の差」である。人間の数は、「凡人>>>>>>>天才」である。数百万倍近い差がある。従って、凡人がその気になれば、天才を殺すことは極めて簡単なのである。
歴史上の人物で最も分かりやすい例は、イエス・キリストだろうし、もっと卑近な例でいうと、かつてのホリエモンが分かりやすい。
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