「天才を殺す凡人」から考える 大企業でイノベーションが起きないメカニズム(3/3 ページ)
パラダイムシフトの時代、社内変革の必要に迫られている企業が増えている。しかし、変革を主導する人が道半ばで“殺されて”しまうことも少なくない。変革の火を消さないために企業ができることとは。
世界の崩壊を防ぐ「3人のアンバサダー」
コミュニケーションの断絶を防ぐ際に、活躍する人間がいる。
まず、「エリートスーパーマン」と呼ばれる人種は、「高い創造性と、論理性」を兼ね備えている。だが、共感性はほんの少しもない。分かりやすいアナロジーでいうと、投資銀行にいるような人だ。
次に「最強の実行者」と呼ばれる人は、何をやってもうまくいく、「極めて要領の良い」人物だ。彼らは、ただ単にロジックを押し付けるだけではなく、人の気持ちも理解できる。結果的に、一番多くの人の気持ちを動かすことができ、会社ではエースと呼ばれている(そして、一番モテる)。
最後に「病める天才」は、一発屋のクリエイターが分かりやすい。高いクリエイティビティーを持ちつつも、共感性も持っているため、凡人の気持ちも分かる。優しさもある。よって、爆発的なヒットを生み出せる。ただし、「再現性」がないためムラも激しい。結果的に、自殺したり病んだりすることが多い。
まず、世界が崩壊していないのは、この「3人のアンバサダー」によるところが多い。
天才を救うのは「共感の神」
先日、「とある超大企業の人」と議論したとき、面白い気付きがあった。
それは、大企業がイノベーションを起こすために必要なのは「若くて才能のある人と、根回しおじさんだ」という話だった。これを「天才と、根回しおじさん理論」と呼びたい。
言わずもがなだが、大企業のほとんどは「根回し」が極めて重要だ。新しいことを手掛けるには、さまざまな部署に根回しをしなければならない。しかし、天才は「創造性」はあるものの、「再現性」や「共感性」は低いため、普通の人々を説得できない。骨も折れる。だから、天才がそれを実現するために必要なのは、「若くて才能のある人物を、裏側でサポートする人物」なのだ。つまり「根回しおじさん」と呼ばれる人たちである。
私は、これと全く同じことを考えていた。というのも、凡人と呼ばれる人の中には、「あまりに共感性が高くて、誰が天才かを見極める人」がいるのだ。それを「共感の神」と呼んでいる。
共感の神は、人間関係の機敏な動きに気が付く。結果的に、人間の関係図から「誰が天才で、誰が秀才か」を見極め、天才の考えを理解することができる。イメージでいうと、“太宰治の心中に巻き込まれた女”が分かりやすい。
多くの天才は、理解されないがゆえに死を選ぶ。しかし、この「共感の神」によって理解され、支えられ、なんとか世の中に居続けられる。共感の神は、人間関係の天才であるため、天才をサポートすることができる。
これが、人間関係の力学からみた「世界が進化していくメカニズム」なのだ。
天才は、共感の神によって支えられ、創作活動ができる。そして、天才が生み出したものは、エリートスーパーマンと秀才によって「再現性」をもたらされ、最強の実行者を通じて、人々に「共感」されていく。こうやって世界は進んでいく。これが人間力学からみた「世界が進化するメカニズム」だ。
この記事は北野唯我氏のブログ『週報』より転載、編集しています。
関連記事
- 特集:STOP!名ばかり働き方改革
- 嫌な上司、仕事ができない上司にイラつく人の共通点
嫌な上司や、苦手な上司との難しい関係をうまく乗り越えた人に話を聞いてみると、ある共通点が。そこに、苦手な人とストレスなく付き合うためのヒントが隠れていました。 - 部下がついてこない上司には別の役割を ヤフーが語る「働き方改革の前にすべきこと」
今でこそ、爆速で次々と新サービスを生み出しているヤフーだが、過去には大企業病に陥り、スピード感が停滞してしまったこともある。そんな窮状から脱し、再び成長軌道に乗せるために、ヤフーはどんな改革を行ったのか。 - 部下の成長を加速させるのはどっち? ドーラとナウシカのリーダーシップ
部下の成長を加速させるリーダーシップとは? ジブリ作品の登場人物「ドーラ」と「ナウシカ」を例に、今、求められているリーダーの姿を考えます。 - “名ばかり働き方改革”は、やらない NSSOLとサーバーワークスの本気
ただ「早く帰れ」というだけの“名ばかり働き方改革”が横行する中、“本質を見誤った改革には意味がない”と、本気の改革を進めているのがNSSOLとサーバーワークスだ。社員のモチベーションを高め、利益に貢献する働き方改革はどうすれば実現できるのか。 - 一体感があり、風通しの良い職場のリーダーがやっていること
会議で主体的な意見が出ない、意見がバラバラでまとまらない、新しい取り組みに否定的……そんな“思考停止”な空気を変え、一体感のある、通しの良い職場をつくるには? 実践しているリーダーたちの共通点とコツを探ります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.