「年間1000人と会い続けた」――ALSOKのAI活用、立役者はベンチャー出身の“異邦人”:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(4/4 ページ)
「AI」を活用し、新たな警備の姿を模索する大手警備会社のALSOK。人的なサービスであるが故にIT化が遅れ気味の業界において、先進的な取り組みを進めるコツはどこにあるのか。プロジェクトの中心人物は、さまざまな業界を渡り歩いてきた“異邦人”だった。
オープンイノベーションは「形」ではない
情報とパートナーを求め、勉強会やコミュニティーを渡り歩く干場さん。1年間で約1000人と名刺を交換するという。今では、干場さんだけでなく、商品サービス企画部の各メンバーも週に複数回はさまざまな勉強会に参加しているそうだ。
「ベンチャー系やスタートアップのエコシステムは特に力を入れています。手がかかることもあり、大抵の企業は、名の通っていない企業との提携を断ってしまいがちです。だからこそ、基本的に必ず話を聞くようにしています。私自身がベンチャーにいた時期があるので、むげにされたときの気持ちはよく分かります」(干場さん)
2014年末からベンチャー企業の対応を始め、話を聞いた企業は400社を超える。干場さんは「選球眼は慣れ」とはっきりと言う。絶対のルールはないとしながらも、ベースの技術力は必要だろう。電話でもセンサーの原理でも、AIの原理でも何でもいい。「自社の技術やビジネスをどこまでしっかりと理解しているか」を見抜けるかが重要なのだそうだ。
とはいえ、新技術があるだけでは、自社のビジネスに導入することはできない。社内を巻き込むには、ビジネスで勝てる算段も必要だ。大きな投資を伴う場合は特にそうだろう。ただ、干場さんはこうも話す。
「ビジネスで勝てる算段なんて考えている場合じゃない時代になりつつあります。とにかくPoCをやってみて、10個中1個でも当たればいい。特にAIのPoCはたくさんやろうと思えば、何とかできる。そこから、うちの定番商品として、どれだけ売り出せるかというのが目下の課題です」(干場さん)
特に重要なポイントは、世界中の会社から集めたハードウェア、ソフトウェアによる多様な価値を、干場さんが「1つのサービスとしてエンドユーザーに届けること」を何よりも優先していることだろう。
ここ数年、「共創」や「オープンイノベーション」といった言葉が注目されているように、自社と他社の技術を組み合わせ、1つのソリューションを作ろうと考える企業は多く、そのためにベンチャーを募ったり、ラボを作ったりと巨額の投資するケースも少なくない。だが、必ずしも巨額の投資が不可欠というわけではないのだ。干場さんは「別に形にこだわらなくてもいい」と話す。大切なのは、価値を作る取り組みを実践することであり、すぐにでもできることはいくらでもある。
「ウチは活動を始めた当初からほそぼそとやるしかなかった。でも、今はそれが正しかったかなと思います。形ではなく、小さくてもいいから実績を出していくことこそが、一番大切なことなのだと思います」(干場さん)
オープンイノベーションは「形」ではない――。さまざまな企業を渡り歩き、人と人とのコミュニケーションで着実に“仲間”を増やしてきた干場さんの活動からは、デジタル変革時代に必要な“共創の形”が見えてくる。
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