画像解析でレガシーな小売業を“データドリブン”に――看板屋「クレスト」2代目社長の挑戦:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(3/3 ページ)
小売業のリアル店舗に設置し、店舗前の交通量やディスプレイへの関心度を計測する「ESASY」。強い問題意識があっても、アナログな業界にデジタルの考え方を持ち込むのは難しい。IT業界の経験がないという永井氏が、なぜこのサービスを生み出せたのか。
データを忌避するレガシーな小売業に革命を起こせるか?
永井氏によると、今後はESASYに個人認証の機能を搭載する準備を始めているという。
年齢や性別の推定は現行のシステムでもできるが、顔認証は膨大なデータベースが必要だ。だが、それが実現できれば、POSデータを介してポイントカードのデータなどとも連携できる。売り上げなどのデータと組み合わせたときの効果は未知数だ。
例えば、商品をパッと見ただけで帰ってしまう人と長時間見た人では、店舗にとっての価値は大きく異なる。こうした分析はディスプレイや広告の効果測定には向いているが、さらにPOSデータと連携すると、実際の購買数との関連性も見えてくるかもしれない。
「商品を手に取った後に、実際の購買に結び付くまでには、接客などさまざまな要因があるので、さらなる解析が必要だと考えています。接客をした人間のデータが取れれば、接客の質を可視化することも可能でしょう。今はリアル店舗向けの音声認識を次の製品として開発しようとしています。1〜2年後になるとは思いますが、会話を文字データ化し、周波数や言語を解析して、接客の質を高められるようなソリューションを考えています。
他にも、ブロックチェーンを活用した物流技術に注目しています。クレストに入社してから毎週のように百貨店でのディスプレイ工事に立ち会う日々が続いていたのですが、当時の百貨店の荷さばき場では、さまざまな企業がバラバラに発注した空のトラックが大量に来て、少しずつマネキンや在庫品を乗せて出発し、次は別のブランドが発注した施工会社のトラックが来て、少しずつマネキンやディスプレイ品を降ろして空の荷台になって帰っていくような光景が見られました。
このようなムダを誰もが当たり前のことだと思って見過ごしているのを見て、いつかどうにかしたいと思っていたんです。これらもブロックチェーン技術やビッグデータなどの技術で変えられます。小売事業者はこうした問題に対して本気で向き合わなければなりませんし、そのためには、“今の当たり前に疑問を持つ”ことが大事だと思うのです」(永井氏)
ただ、こうした新しい動きに対する懸念がないわけではない。日本では、小売業の店舗担当者は技術やデータに対する興味が薄い人も少なくない。“売り上げの傾向や売れそうな予感”などは感覚として持っているものの、技術やデータがなかなか受け入れられないのも事実だ。むしろ、これまで培ってきた示唆や感覚的な固定観念はデータでは表せないと思っている人もおり、そこをいかに打ち破るかが課題となる。
とはいえ、そうしたトレンドも、今後数年で大きく変わるのではないかと永井氏は見る。
「近年のファッション業界では、ECの売上高比率がどんどん伸びています。IR情報を見れば、EC化による高い成長率に驚かされるでしょう。そうなれば当然、社内でもEC担当者が増え、社員のキャリアパスも変わるでしょう。今までは『新卒は店舗に入って、数年してから本社に行き、本社で店舗開発とかマーケティングに携わる』というのが、ファッション業界の一般的なキャリアパスだったわけですが、今はそれが変わってきています」(永井氏)
永井氏が目指すのは「レガシーな産業に革新を起こすこと」だ。
その第一歩がESASYの導入で広告やディスプレイのデータベースを作ることであり、その先には、エンドユーザーを巻き込んだトラッキング分析や、AIやブロックチェーンを活用した1to1マーケティングなどを見据えている。
「技術革新のスピードが早まっている今、仮想世界と現実世界が二分される傾向は進むでしょう。両者を行き来するビジネスは必要でしょうし、それもできるとは思いますが、僕は両者の橋渡しをするというよりも、バーチャルな世界の先端へ行きたいですね。それは巡り巡って、リアルな世界の先端に行くということでもあると思うんです
ESASYの導入で広告やディスプレイのデータベースを作ることはその第一歩にすぎず、小売業界全体のイノベーションを実現することが私の目標です。オープンイノベーションマインドを駆使し、会社間の垣根を超えて、イノベーティブな仲間と共に、10年後、20年後、30年後の理想の未来を想像し、その未来を今から創り出す――。そんな仲間と同じバスに乗れれば、私にとってこれ以上の幸せはないですね」(永井氏)
【聞き手:大内孝子、後藤祥子】
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