現場スタッフが“Excel脳”から“データベース脳”に バリューコマースは、Excel職人が活躍する世界をどう脱したのか(2/2 ページ)
会社のあちこちでExcel職人が活躍し、情報の分散と分断が起こってしまう世界からバリューコマースはどうやって抜け出したのか。
誰もが「現状を変えたい」のに、余裕がなくそのままに
Excel職人がいくら便利なマクロを作っても、各自がシステムからデータをダウンロードし、集計し、グラフを作り、PowerPointに貼り付けてレポートを作る……といったことを日々繰り返すのはやはり非効率だ。また、そのような方法で作られたデータは正確かどうかも分からない。
香川社長は山野目さんの入社前からこの点に課題を感じ、誰もが必要な時にいつでも、最新のデータを見られるよう、BIツールの導入を指示していた。それを受けてツールを選定し、試験導入を進めていたのが長谷さんだった。「社内の誰でもが使える」という要件を満たすため、ユーザー側でソフトウェアのインストールやアップデートの必要がなく、Webブラウザで利用できる「Yellowfin」を選んだのだという。
ちょうどYellowfinを試験的に導入していた頃に山野目さんが参加し、情報の一元化はさらに後押しされることになった。
「ここに来たとき、メンバー全員と個別に話をしました。情報を整理し、みんなが同じものを見て状況を把握し、それぞれの業務が意味のあるつながりを持った状態にしたい、というビジョンを伝え、『どう思いますか?』と聞くと、ほとんど全員から『その通りです。私もそういうふうにしたかったんです』と返ってきました」(山野目さん)
社長や山野目さんに限らず、誰もが問題を認識しており、それを解消したいと考えていたのだ。しかし、根本的なところに手を付けづらいからこそ個々人の対応でしのいでいたわけで、忙しい毎日の中で率先して改革を主導できる人がいなかった。そこにやってきた山野目さんは救世主のようなもので、改革に対する抵抗は特になかったという。
kintone、コラボフロー、Yellowfinを組み合わせて顧客管理システムを構築
山野目さんはサイボウズの業務アプリ開発プラットフォーム「kintone」を利用し、簡易的な顧客データベースを作成した。
「お客さまの広告出稿の設定や、支払いサイト、イレギュラーな対応のことなど、みんながバラバラに自分のExcelに記録していたような情報をkintoneに統合したんです。ただ単にデータを集めるだけでは、データが最新かつ正確である状態を保てないので、業務プロセスも再設計しました」(山野目さん)
kintoneでは、データのそれぞれのレコードやその中の項目について、ステータスと利用者の権限に応じて編集の可否などを設定できる。バリューコマースでは、それを利用してステータスごとに誰が何の項目を入力可能かを制御し、データの正確性を保つようにした。また、値引きの設定など、上長の承認が必要な項目については、ワークフローシステムの「コラボフロー」とkintoneを連携させることで、決裁処理とデータの更新を自動で行えるようにしている。
山野目さんが「大きなブレークスルーだった」と話すのが、kintoneで入力した各種データをYellowfinで閲覧できるようにしたことだ。
「kintoneは入力インタフェースとデータベースが簡単に作れるので便利ですが、リレーショナルデータベースのように別々のテーブルを統合して見ることができないんですね。それに、kintoneに顧客の情報がたまってくると、広告サービスのシステムにたまっているトランザクションデータと合わせて分析したいというニーズも出てきます。そこで、うちのCTOがkintoneのデータをYellowfinのサーバに持っていくという連携部分をササッと5分くらいで作ってくれました」(山野目さん)
「kintoneのデータを流し込むようになって、Yellowfinの活用範囲が大幅に広がりました。例えば顧客データの更新が、『あるステータスで止まっている』というようなこともYellowfinで可視化され、BIツールの機能でアラートを出すようなこともできます。kintoneだけではできないことをYellowfinが補って、1つのシステムのような形になりました」(長谷さん)
現場スタッフが“Excel脳”から“データベース脳”に
kintone、コラボフロー、Yellowfinを組み合わせた比較的シンプルなシステムを構築したのは、業務改善に開発者のリソースや予算を多く投入できないという事情があったからだった。しかし、最初から完成された営業管理システムを導入せず、ある意味、現場のIT初心者にも分かりやすいツールで作ったことが、社員のITリテラシーのさらなる向上に役立つという副次的な効果もあった。
「以前はほとんどの人がExcel的な発想しかできなかったんです。とにかくExcelのシートに必要なデータを投げ込んで、他のファイルとの関係なんかは特に気にしていなかった。そのため、同じ情報を重複して管理する状況が起きていました。今は、うちのチームみんながデータベース的な発想をするようになったんですよ。『あれ? このアプリとこのアプリは同じ情報を持ってるからつなげればいいよね』という考え方ができるようになって、設計段階からデータの管理について整理できるようになったため、技術の人たちも話が通じやすくなりました」(長谷さん)
「今、kintoneの開発を担当しているスタッフも、以前は技術の人に業務要件をうまく伝えられず相手を困らせていたんです。でも、今ではその人が他の人から依頼を受けるときに『ちゃんと要件を伝えて』って言っていて(笑)。すごく成長したな、とうれしく思ってます」(山野目さん)
データ統合が生産性向上につながるのは「まだまだこれから」だというが、kintoneとYellowfinの活用は、顧客管理以外にも広がっている。
例えば、山野目さんの統括する本部では各自のタスクを「チケット」として登録し、可視化を始めた。それによって、月末月初に集中していたタスクをもっと早い時期から手を付けられるようにし、平準化することに成功したという。
「そういう効果が見えてくると、データ入力を面倒に感じていたメンバーも、積極的に入力して改善できることがないか考えてみよう、というふうに変わっていくんです」(山野目さん)
また、営業担当者から他部所への各種依頼についても、その背景を含めて伝えられるよう、kintoneで依頼フォームを作って運用するようになった。それだけにとどまらず、2018年1月には営業部門で部長を務めていた人を業務推進側の部長に異動させ、部門間の風通しをさらに良くしようとしている。
山野目さんは、同社の「ともに拓く」という企業理念になぞらえ、自身のミッションは「セクショナリズムをなくし、社員がみんなで“ともに”1つのところに向かっていけるようにすること」と話す。その言葉からは、「システムありきではなく、まずはあるべき業務の流れをデザインすることが重要」という、CIOとしての信念が伝わってくる。
【聞き手:後藤祥子、やつづかえり】
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