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CSIRT小説「側線」 第5話:時限装置(後編)CSIRT小説「側線」(5/5 ページ)

企業を守るサイバーセキュリティの精鋭部隊「CSIRT」のリアルな舞台裏を目撃せよ――メタンハイドレート関連の貴重な技術を保有する、ひまわり海洋エネルギーの新生CSIRT。新たなインシデントに直面した若手メンバーが、ベテランに追い付きたい一心で引き起こした「思わぬ事態」とは……?

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栄喜陽潤:インシデントマネジャーの志路大河に引っ張られてCSIRTに加入。志路を神とあがめる。沖縄県出身。イケメン

 「おおありよ。何度も何度もコマンダーの皇(すめらぎ)さんからたたかれて。彼、打たれ強いからたたかれるたびに強くなったわ」

 ――潤は黙って酒を飲んだ。

 「そうそう、このお店、2号店ができたみたいよ。2号店のママはおんなの人」

 ――潤は、「普通、ママは女の人だろう」と思ったが、黙って聞いていた。

 「この間、オーナーの大河内さんが来て、『山賀ちゃん、景気はどう?』って聞くの。時々飲まないまま帰ってしまう人もいるけど順調よ、って私が答えたら、オーナー、どうしたと思う? 『それなら2号店作ろう、今作ろう、すぐ作ろう』と言い出して、途中まで関係者にメールを打っていたけど、面倒くさくなったのか、途中から方法を切り替えて、電話しまくってたわ。人脈が謎だけど、すぐに2号店ができた。せっかちでもうまくいくケースもあるってこと。これは偶然じゃないわよ。オーナーの謎の人脈が前提ということ。他の人がまねすると危険だわ」

 ――潤は、「背中を見て育つのも良いけど、まねばかりだと失敗するよ」と山賀ママに言われている気がした。自分のインシデントハンドリングは、自分なりの個性や能力を生かした自分だけのものを作らないといけないと思った。志路さんの心は受け継いでも、具体的な方法は自分で考えよう。

 山賀ママは2号店の情報を教えてくれた。

 「2号店のママは日中仕事をしているから、お店を開けるのは夜だけよ。大山という人。大山ママは、自宅だけでなく会社でも、“おっきな子ども”の面倒を見ているので、いろいろ面倒くさい相談にも乗ってくれるわよ。こんど行ってみたら」

 ――潤は礼を言ってバーを出た。自分の進む道が少しだけ明るくなった気がした。

@CSIRT執務室

 雨が上がった。

 梅雨空の雲を割って満月から銀色の光が差し込むのを、潤はじっと見ていた。

【第5話 完 第6話前編に続く

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CSIRT小説「側線」 人物相関図

イラスト:にしかわたく

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