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いまだに残るレガシー IEの“功罪”とはMostly Harmless(2/2 ページ)

「Microsoft Edge」をリリースして以来、「Internet Explorer」からの移行を呼びかけているMicrosoftですが、IEを完全にサポート外にはできない事情があるようです。

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Microsoftが行った機能拡張

 ここでMicrosoftは、本来であれば、インターネットのコミュニティーに働きかけてHTMLの機能拡張を行い、W3Cに提案して標準化すべきでした。しかし、Microsoftはそうはせず、独自にIEの機能拡張を行うという(コミュニティーから見れば)暴挙に出たのです。

 Microsoftにしてみれば、コミュニティーを巻き込むと時間がかかりますし、2000年頃にはIEは市場の9割以上を占めるブラウザになっていましたから、IEが事実上の標準であるという意識もあったのかもしれません。この頃は「デファクトスタンダード」といって、規制団体が決めなくても、圧倒的なシェアをとれば勝ち、という風潮があったことは事実です。私見ですが、こういったことが原因で、Microsoftはネットコミュニティーと折り合いが悪くなっていったように思います。

 Microsoftの名誉のために言っておくと、こうして追加された機能は、確かにユーザーにとって便利だったということです。この機能を使ったサイトが多く生まれた事実が、それを裏付けています(そしてそれが、今に至る問題を引き起こしたわけですが)。

 昔からPCを使っている人は、「このサイトはIEでないと正しく表示されません」というサイトがあったことを覚えているでしょう。事情を知らずに「なんだ、NetScapeのバグなのか?」と思う人も多かったようですが、実はNetScapeこそが正しく、IEの方が互換性を無視していたのです。しかし実際には、シェアの上で圧倒しているIEが正義に見えてしまった、ということなのでしょう。

時代はHTML5へ

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 しかし、10年近く続いたIEの時代も終わりを迎えます。先のWikipediaにもあるように、クラウドが普及し始めた2005年前後から、クラウド用のクライアントとしてのブラウザが見直され、「W3Cの標準規格に準拠した」ブラウザが次々にリリースされました。NetScapeから生まれた「Firefox」のシェアが伸び、Googleからは「Google Chrome」がリリースされ、iPhoneの普及とともにAppleの「Safari」のシェアも高まりました。

 同時期にAppleなどを中心とするグループがHTMLの機能拡張を進め、これが今のHTML5につながりますが、正式な勧告(最終決定)は2014年にずれ込みましたが、これは実に15年ぶりのHTMLの新バージョンだったのです。インターネットのような世界で、根幹となる規格が15年間バージョンアップされなかったというのは驚くべきことです。

 このような流れに押され、当初はHTML5への取り組みに消極的だった(ように見えた)Microsoftも、徐々に独自規格から標準規格に移行しました。このため、IE8以降は徐々に旧バージョンとの互換性が失われ、対応パッチや互換モードを搭載するなど、話が非常にややこしくなっていきました。そしてついにMicrosoftはIEをディスコンにし、Edgeという全く新しいHTML5対応ブラウザを「Windows 10」に標準搭載したのです。

 先のMicrosoftのIEサポートチームのブログでは、標準化のメリットも訴えています。

 Microsoft Edgeは最新のWeb標準で定義される機能を利用したリッチなブラウジング体験をユーザーに提供することや、相互運用性、つまり、Google Chrome や Apple Safari、Mozilla Firefoxとも相互に運用できるブラウザであること、PCのWebサイトはもちろん、スマートフォンやタブレットを前提に制作されたWebサイトとも相互に運用できることをコンセプトに、開発されています。

 本当なら、とっくにサポートを打ち切っていてもおかしくありません。しかし、サポートをやめたら、法人ユーザーからそっぽを向かれる恐れもあると考えているのかもしれません。

 自分で蒔いた種とはいえ、Windows 10への移行を急ぐMicrosoftにとって、意外な足手まといとなるのかもしれません。

著者プロフィール:大越章司

外資系ソフトウェア/ハードウェアベンダーでマーケティングを経験。現在はIT企業向けのマーケティングコンサルタント。詳しいプロフィールはこちら


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