情シスもベンダーも“井の中の蛙”になるな、大海に出でよ!――ローソン システム基盤部の進藤広輔氏:長谷川秀樹のIT酒場放浪記(4/4 ページ)
ローソンでのAWS構築の経験を踏まえて、AWSに転職するという進藤広輔氏。ユーザー企業の視点を持った“AWSの伝道師”を目指すという藤広氏が浮き彫りにする、情シスとベンダーに必要な意識改革や、社会に求められる人材流動性の高度化とは?
井の中の蛙、大海へ出でよ
長谷川: 進藤さんは、事業会社でやってきて、これからベンダー側に転職される。そこでお聞きしたいんですけど、その立場からユーザー企業の情シスやベンダーにアドバイスするとしたら、どういう感じですか?
進藤: ベンダーに対しては単純明快で。1回ユーザー企業に入ろうと言いたいですね。
長谷川: ああ、一度転職しろと。
進藤: 出向でもいいですけどね。少なくとも3年、ユーザー企業で何が行われていて、どう意思決定されているのか、そういうのを経験しようと。そうすれば、ベンダーの中だけでは理解できなかったことが見えてくるから。
で、それをちゃんと持ち帰って、ベンダー内部で“Noと言える人材”になってよ、ベンダー観点だけの提案しないでよと、そう言いたいです。実際、ベンダーの中には一度ユーザー企業に行ってみたいという人はけっこういるんですよね。
長谷川: うんうん。
進藤: ユーザー企業に行くと、同じシステムに対していてもベンダーとユーザーとで見える景色が違うことが分かるんです。ベンダーからすると売上の材料でしかないけど、ユーザー企業からすると、場合によっては公共システムだったりして、それを運用することそのものが使命だったりするんですよ。その責任を理解しなさい、と。
長谷川: なるほどね。
進藤: ユーザー企業を外から見ていると「なんで早く決めないんだろう」と思えるようなことも、実はユーザー企業ならではの“理由”があります。そういうのを知ると、おのずと提案内容も違ってくると思うんですよね。
だからベンダーには、“出戻り社員”にペナルティを与えないで、とも思います。そうやって見聞を広めてきた人には、むしろ「戻ってくれてありがとう」と、給料も上げて再雇用してほしい。そういう制度があるといいなと思う。
一方、ユーザー企業の人もずっと同じところにいるのはお勧めしません。ベンダーに行けとは言わないですよ、スキルや文化も全然違うので。ただ、やっぱり1社の中でプロフェッショナルになっても、それは“井の中の蛙”に過ぎなくて。自分の市場価値はグローバルな視点で評価しよう、と言いたいんですよね。大海を知らないままだと、情シスとしての活性がなくなっていく。やっぱり、新しい風が吹き込むところに新しいものは生み出されると思うので、そういうことを意識しながらキャリアを積んでいくのが面白いと思いますね。
長谷川: まったく同感。人材流動性を高めないと。流動しないことが日本経済停滞の理由だとさえ思っています。
例えば、経営会議とかでも、それまで舌鋒鋭かった人が役員になった途端おとなしくなる。なぜかというと、現社長も次期社長には自分に従順な人を選ぼうとするから、変なことを言わないことが評価の対象になるんだよね。正しいことを言った人の意見が通るのではなく、信任の厚い人の意見が通る。
もしもそこで「俺はいつでも転職できる」というね、流動性の高さが背景にあれば、もっとみんな言いたいことを言うと思うんですね。
進藤: 絶対そっちの方がいいですね。言いたいことを言って切られるならそれでもいいというか、そうなっても大丈夫なようにみんな実力をつけるべきだと思います。
ローソンの経験を踏まえた“AWSの伝道師”に
――最後にAWSでやっていきたいことについて、具体的なイメージはありますか?
進藤: そうですね。ローソンでの経験を基に、AWS側の責任ある立場で「こうしていきましょう」と伝えたいですね。ローソンの経験を踏まえた“AWSの伝道師”みたいな。
――肩書としてはどのようなものになるんですか?
進藤: ソリューションアーキテクト(SA)になります。
長谷川: テクニカルが分かる立場から、ちゃんとしたアドバイスできる。そんな感じですよね。
進藤: ええ。SAとして責任ある立場の方々にもクラウドのメリットを訴求する。そういう役割が担えたらいいですね。
長谷川: なんというか、AWSだからこその保守運用があるんだよね。例えば、オンプレの場合は正副が必要だけど、クラウドだったら再起動でよくね? みたいな。そういうこれまでの常識とクラウドの常識で異なるところは、保守運用を再設計しないといけない。
ただ、理論上はそうでも、ベンダーに言わせると「何言ってるんだよ」とこれまでの常識にしがみついちゃう。そこで進藤さんのような人が言うと説得力あるし、そういうところから変えていけたらいいですよね。
進藤: あと、AWSがどこまでやっていいというか分からないんですけど、構想が1つあって。
長谷川: ほうほう。
進藤: AWSにもガイドラインというか、共通基盤というか、標準化が必要だろうなと考えていて。AWSのサービスがどんどん進化して変わっていっても、AWSの立場できちんとそれらを改修して、例えば「小売業ならこういうシステム構成があるよ」というようなパターンを作って、そのためのガイドラインを常に提供していく。そうやって導入・運用の障壁を下げていく。
実際、ローソンでも構成をパターン化・自動化していて、社内で勉強会もやってきたので、そういうのをAWSとしてやっていきたいですね。
長谷川: いいですね〜。ちなみにSAだと顧客から誘われないと「re:Invent」には出られないんだよね、ルール上は。
進藤: そうらしいですね。
長谷川: 俺らユーザーグループでさ、「進藤さんが来ないのはあり得ない」ってやるんで、一緒に行きましょう!
進藤: ぜひ、よろしくお願いいたします!
ハンズラボ CEO 長谷川秀樹氏プロフィール
1994年、アクセンチュア株式会社に入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。2008年、株式会社東急ハンズに入社後、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。デジタルマーケティング領域では、Twitter、Facebook、コレカモネットなどソーシャルメディアを推進。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは、次世代のお買い物体験への変革を推進している。2011年、同社、執行役員に昇進。2013年、ハンズラボを立ち上げ、代表取締役社長に就任。(東急ハンズの執行役員と兼任AWSの企業向けユーザー会(E-JAWS)のコミッティーメンバーでもある。
【取材・執筆:須田ユキヒロ】
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