日本企業は今こそ、手を組んでチャレンジに打って出るべき――カインズ 代表取締役社長 土屋裕雅氏:長谷川秀樹のIT酒場放浪記(3/4 ページ)
「AWS re:Invent 2017」に刺激を受けて、翌年の年頭朝礼で「IT企業宣言」をしたというカインズ代表取締役社長の土屋裕雅氏。SPA(製造小売業)にもIT改革をもたらすべく、CEO自らITのトップランナーたちに学ぶ土屋氏が描く、業界を超えたイノベーションとは。
日本の企業はもっと手を組んでチャレンジすべき
長谷川: 僕はいまの会社に転職して入っているので、プロパーの人が言いにくいことを言うのが自分の役割だとも思っているんですよ。入社年次、過去の栄光だとか、役職上下関係なんかは、僕には全く関係ないので。
土屋: 僕もそうですよ。日本の企業で、遠慮なく「違うんじゃないですか」と言えるところはなかなか少ないですよね。
長谷川: ええ。
土屋: ちょっと面白い会社がありまして、2017年にカインズと資本提携した大都(DIY用品販売のベンチャー企業)です。そこでは肩書というものがなくて、社長は「ジャック」と呼ばれています。広報の女の子は「ズッキー」。この間、早稲田でも話をしてもらったんですけど、最初にジャックが、後半はズッキーが出てきて、ズッキーがジャックより目立っている(笑)。まだ4年目くらいの若手なんですけどね。
長谷川: 実は僕、個人的には、大都さんが運営している「DIY FACTORY」との業務提携したいなーと思ってたんですよねー。
土屋: そうなんですか!?
長谷川: オンラインで実業をやっている企業と、オフラインのわれわれみたいな企業が組むのは、一番ジャンプアップできる形になるんじゃないかと思っていて。例えば、東急ハンズのDIY用品は大都から仕入れるから、代わりにオンラインのDIY部門の販売を大都に全部任せる、という形でがっつり組めばいいんじゃないかと考えていたんですよ。
土屋: いいアイデアですね。
長谷川: そんなことを考えていたら、カインズさんと業務提携というニュースを知って、「うわー、やられた」と(笑)。
大都の山田社長(ジャック)とは、「Ad:tech(アドテック)」というオンライン広告のカンファレンスが関西であったときに、たまたま知り合ったんです。実は、今度の酒場放浪記に出てもらうことも決まってるんですよ。
土屋: ジャックがですか? それはすごくうれしいな。僕、会社の事業に関連しては自分ほどの情報通はいないという自負があるんです。でも、ジャックは僕より早いところがあるんですよ。だからジャックより先にIT酒場放浪記に来られたというのは、すごくうれしいです。
僕は、うちも含めて、ハンズさんも一緒に組めばいいと思いますよ。
長谷川: 本当ですか?
土屋: ええ。マーケットが違うし、あまりカニバっている感じもしないでしょう。つまり、日本でそんなこと言っている場合じゃないんです。海外での激変を考えると、日本でももっと新しいことを生み出さないと。
長谷川: これは、僕個人の考え方ですが、DIYやインテリアは、ホームセンターさんやニトリさん、IKEAさんがどんどん弊社の近隣に出店される中で、厳しいんですよ。中でも、ノンブランドコモディティ商品群は、大量生産し、安く消費者に提供した方がいいと思うんですよね。例えば、収納ケース、テープなど、いっぱいあると思うんです。そういうコモディティで付加価値競争のない商品は、やっぱり安い方がいい。そういう商品は東急ハンズのコアな商品ではないと考えて、例えば、カインズさんから仕入れるという形で組んだ方がいいと思うんですよね。
土屋: とても長谷川さんらしい考え方ですね。
IT業界と小売業界に共通する自前主義、秘密主義の問題点
土屋: 日本の企業は、競争分野とそうでないところを分けずに、何でも“自前”でやろうとするのが問題だと思いますね。例えば、日本の小売業にとってAmazonはライバルだからAWSも使わないとか……。
IT投資の中身も秘密にして、経験を共有しない。でも、競争分野でないところはもっとオープンにすれば、お互いつまらない投資をしなくて済むわけですよね。
長谷川さんのすごいところは、その主役を企業の中の個々人に置き換えていっているところだと思います。それぞれの経験や失敗を明らかにする場所を作ろうというのは、コペルニクス的といってもいいくらいの、発想の転換だと思いました。
長谷川: 僕の考え方が大きく変わったのは、東急ハンズに入って、通販(EC)を担当するようになってからなんですよ。EC業界はベンチャー企業が多くて、「絶対生き抜くんだ」という強い意思を持って勉強し合っているんですね。「小粒な俺たちがそれぞれに戦ったところで、どうにもならない。それよりもお互いに知っていることを教え合って、どんどん大きくしていこうぜ」ということを、きれいごとなしにやっていたんです。そういうのに触れてから、社外の付き合いがグッと増えて、通販だけでなく、ITでも同じようにやり始めたんです。
土屋: ITの業界で、そんな人はいなかったんでしょう?
長谷川: そうですね。IT業界といっても、SI業界とネット系業界に区別されるんですが。SI業界の集まりだと、「営業する側、される側」みたいになってしまうんですけど、最近は、「日経ITイノベーターズ」やAWSのユーザーコミュニティー「JAWS-UG」で、テーマに沿った勉強会があるので、うまく機能していると思います。
特に、AWSは、企業と“大手ではないが技術力のある会社”をつなげるようなことにもなっているんで、日本のSI業界(クラウド業界)もだんだんと、いい方向になっているのではないでしょうか。
土屋: 業界に風穴が空いたような感じですか?
長谷川: ええ。クラウドというのは、“下克上”ができる世界なんですよ。それまでは、スーパーコンピュータみたいなものを持てる大手企業にしかできなかったことを、ITスキルが高ければ、所属企業の大小に関係なくできるし、「できるやつがスターだ」となっている。それが面白いですね。
土屋: それに逆行するような話ですが、小売業界は、より“秘密主義”になっていっているような気がします。
僕がこの業界に来て最初に入ったのは、アイ・シー・カーゴサービスという物流会社だったのですが、当時は西友だとかイオン系のカジュアルブランドの会社とか、アポを取ると快く受け入れてくれて、いろいろ教えてくれたんです。海外の会社も同じで、Walmart(ウォルマート)もTarget(ターゲット)も、みんな喜んで物流センターを見せてくれました。
それが、2000年以降からでしょうか、いまは日本の企業がTargetの物流センターを見たいと言っても、絶対見せないですね。それがSCM(サプライチェーンマネジメント)のキーだからということかもしれないけれど、そこまで秘密にする必要があるのかと。
そんな体験があるので、ITでも同じ問題があるのかな、と思ったんです。
長谷川: そうですね、情報システム部も、僕らも含め、旧来のITの人が勘違いしていたのは、自社が何のミドルウェア、OSを使っているとか、サーバが何台あるとか、セキュリティソフト、アプリケーションソフトは何使っているとか、言っちゃいけないんだろうと思っていたんですよね。でも、そんなことを言ったところで売上には響かないし、関係ないんですよね。
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