インフルエンザを診断するAI、ディープラーニングで実現へ 医療機器ベンチャー「アイリス」の挑戦(2/2 ページ)
タイミングの制限があり、精度もそこまで高くはないインフルエンザの初期診断。これをディープラーニングで支援できないか、と挑むベンチャー企業がある。
「診療」のAI化に挑戦、ゆくゆくは診察技術の“GitHub化”を
アイリスでは、この冬のシーズンから、インフルエンザ濾胞の画像データを集める臨床研究を医療機関と共同で行う予定だ。AIを開発した後、治験や薬事承認を経て、2020年ごろにAI搭載内視鏡カメラの発売を目指しているという。
医療業界でもAI導入は進んでいるが、その多くは「検査」の分野だと沖山さんは話す。X線検査やMRIなどが分かりやすいだろう。過去の画像データなどが豊富にある他、判断の基準が機械的(数値的)だ。一方、アイリスがAI化を目指すのは「診察」の分野だ。実際に患者に接して判断するため、数値化や言語化が行いにくい。ただ、それこそがディープラーニングが得意とする分野でもある。
「今開発している製品は、目で見る視診が対象ですが、触診や聴診といった分野もAI化が期待できます。“匠の技”ともいえる、熟練医の診察スキルをAIで再現し、全国の医者に届けるのがアイリスのミッションです」(沖山さん)
文字にできない、暗黙知ともいえるノウハウをAIという形で記録し、再現することで、そのノウハウは世界中で共有可能なものになる。沖山さんはこのインパクトを、活版印刷による情報革命と比較して、こう説明する。
「人間は文字を発明することで、情報を記録し、知識を共有できるようになりました。活版印刷がそれを広める役割を担ってきたわけです。一方、暗黙知や身体知のような、非言語的なノウハウについては、ディープラーニングをはじめとするニューラルネットワークが情報をストックする手段になるでしょう。それを広めるのはインターネットです。
いずれは名医の診察スキルをダウンロードして使える――全医師で共有できる時代が来るでしょう。医療だけではなく、美術や音楽といった分野でも同じことが起きるかもしれません。私たちは診療技術を共有し共創する、いわば“GitHub化”を目指しているのです」(沖山さん)
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