CSIRT小説「側線」 第10話:シンジケート(後編):CSIRT小説「側線」(1/3 ページ)
機密情報漏えいの危機にさらされたひまわり海洋エネルギー。同じ手口のインシデントが海外でも起こっていることを知り、インベスティゲーターの鯉河平蔵は情報収集のためインターポールに向かう。情報を交わす中、犯行の手口や犯人像が浮かび上がってきた。
この物語は
一般社会で重要性が認識されつつある一方で、その具体的な役割があまり知られていない組織内インシデント対応チーム「CSIRT(Computer Security Incident Response Team)」。その活動実態を、小説の形で紹介します。コンセプトは、「セキュリティ防衛はスーパーマンがいないとできない」という誤解を解き、「日本人が得意とする、チームワークで解決する」というもの。読み進めていくうちに、セキュリティの知識も身に付きます
前回までは
機密情報を失いかねない危機にさらされたひまわり海洋エネルギー。海外でも同じ手口のインシデントが発生していることを知ったインベスティゲーターの鯉河平蔵は、インターポールで詳しい話を聞くためにシンガポールに飛んだ。
@インターポール
事務所に着くとすぐ、入口まで男が迎えに来た。
「はじめまして。ピエール 王(ぴえーる わん)です。インターポールへようこそ」
ピエールと名乗る男が握手を求めてきた。長身のやせ形でデーブとは対照的だ。鯉河(こいかわ へいぞう)は握手に応える。
「鯉河です。お世話になります」
鯉河から受け取った名刺を見てピエールが尋ねる。
「鯉河さんのところの小堀(こぼる ゆうざ)さんは元気ですか?」
「良くご存じですね。今年からCISO(Chief Information Security Officer)に就任して大変なようです。かくいう私も、そのCSIRTメンバーの一人なのですが」
「小堀さんとは大学時代からの古い付き合いです。学生時代、小堀さんはずーっと経理ばっかりやっていて、科学技術計算のようなものは苦手でしたね。科学技術計算の課題はいつも、もう一人の友人に手伝ってもらっていました。私はその点、商学も科学技術計算も得意だったので、卒業後には軍関係の仕事に就きました。その後、フランスのインターポールで国際連携の捜査をしていました。母親がフランス人でしたので、言葉には困らないのもよかったです」
鯉河は黙って続きを聞いている。
「そんなある日、フランスのインターポールがサイバー攻撃を受けたことがありました。私は現実的な捜査は得意ですが、サイバー攻撃を受けたことは初めてだったので慌てました。周りの人に声を掛けて「大変だー! 誰か、警察を呼べー」と触れ回りましたが、「お前が警察だろ!」と総突っ込みされたのは忘れられない思い出です。それがよほど人事部の印象に残ったのか、昨年からこのシンガポール勤務になりまして……。ですが、今ではサイバー調査もお手のものです」
――横でデーブが人差し指をチッチッと振っているのを鯉河は見逃さなかった。
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