「選手200人の大会に、審判が100人も必要な現状を変えたい」――国際体操連盟が“採点AI”を正式採用へ そのインパクトは?:選手の骨格をAIで判定
国際体操連盟は、体操競技の国際大会に、3Dセンシング技術とAIを使って選手の演技を正確に捉える富士通の「採点支援システム」を導入すると発表した。これにより、体操競技の採点の現場が大きく変わる可能性がある。
国際体操連盟は2018年11月20日、富士通と共同で記者会見を開き、同社の「採点支援システム」を導入すると発表した。複数のセンサーを使って選手の動きを360度の角度からから正確に捉え、審判による判定を支援する。国際体操連盟と富士通は、この導入を契機にパートナーシップを組む。
採点支援システムは、近赤外レーザーを1秒間に200万回照射し、1秒に30コマの画像を撮影できる3Dレーザーセンサーを複数台使って、選手の動きを360度の角度から正確に捉える。また、過去の大会や大学の体操部の映像などを学習したAIを使い、演技中の選手の骨格を判定。選手の動きを、体操競技の各技のルールが載ったデータベースと照らし合わせ、技の正確性や難易度などの判定を支援する。審判は、PCやタブレット向けの専用アプリで選手の演技を再生することで、一瞬一瞬の選手の動きや身体の角度、手足の位置といった要素を確認できるようになる。
国際体操連盟と富士通は、同連盟の渡辺会長が「2020年にはロボットが採点するようになれば、採点の透明性も上がるのでは」と話したことがきっかけで、2017年10月から採点支援システムの開発を共同で開始。2018年にカタールで開かれた国際大会で技術検証を行った上で、正式に導入を決めた。
今回の採点支援システムは、実際に体操競技の判定をどう変えるのか。日本体操協会の審判委員長を務め、実際に国内で審判の育成に当たる竹内輝明常務理事は、同システムの導入について「間違いなく審判の質の向上に貢献するだろう。審判の育成研修にも使えるのでは」と話す。
現在の仕組みでは、審判は選手の一つ一つの技から目を離さず、手元の紙に速記で得点を記録し、複数の審判が判定の正確性をチェックする。ただし竹内氏によれば、経験を積んだ審判にとってさえ、目視による技の姿勢や角度の判定は非常に難しいことがあるという。
「近年、技は高難度化している。例えば白井健三選手によるゆかの新技、『シライ』は、0.5秒の間に3回や4回半のひねりを行う。ゆかでは瞬時にひねりの度数を判定しなければならない。
現状の目視による採点では、正確性を担保するために、多くの審判が必要だ。例えば、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会の体操競技には、男女で196人の選手が参加し、その採点に当たる審判団は100人を超える。これが体操競技の現状だ。今回のシステム導入は、いち体操人として誠にうれしい」(竹内氏)
国際体操連盟は、2019年にドイツで開催される国際大会から、一部の種目に同システムを導入する。現在はあくまで審判による目視の採点を支援するが、2020年には、男子のあん馬、吊り輪、跳馬に加え、女子の跳馬、平均台の合計5種目を対象に、Dスコア(演技の難しさ)およびEスコア(演技の出来栄え)の自動採点を目指す。また、2024年には自動採点の対象を全10種目に広げることを目標にしている。
渡辺会長は、今後について「将来的に体操競技の判定から人がいなくなる、というわけではない。体操競技の採点には、引き続き人の目が必要だ。ただし、システムの導入や採点の自動化が進めば、確実に採点をスピードアップし、全ての採点スポーツが課題にしている審判の公平性や判定の透明性を高められるだろう。選手が練習中に自分のスコアを把握できるようになれば、育成の上でも大きなメリットになる」と話した。
富士通は、国際体操連盟と協力し、今回の採点支援システムを「恐らく、最低数千万円の価格で(阪井洋之執行役員常務)」同連盟に加盟する各国に提供することを目指している。また、今回のパートナーシップは、選手や審判の支援だけでなく、スポーツイベントとしての体操競技に対する観客の誘致やマーケティング強化も見据えている。自動採点システムだけでなく、観客がスマートフォンから採点支援システムの撮影した3D映像を閲覧できるアプリも、現在開発中だという。
富士通の田中達也代表取締役は、「今後は、デジタルマーケティングやスタジアム、アリーナ向けのディスプレイやインターネット接続環境などのソリューションも合わせて、体操競技を支援していける」と話した。
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