CSIRT小説「側線」 【最終話】第14話:新生(前編):CSIRT小説「側線」(3/3 ページ)
「ひまわり海洋エネルギー」にサイバー攻撃を仕掛けた犯人の逮捕劇が終わり、CSIRTを取り巻く状況は変わり始める。メンバーの成長や別れを前にしたチームは、新たな一歩を踏み出す時を迎えた。
「たくさんあるな。覚えきれないぞ」
「いや、これは記者に言う話ではなく、小堀さんにお願いです」
「ん?? あらたまって何かな?」
「ご存じのように、CSIRTのメンバーから懐柔さんと折衷さんが退職します。それで、次のように人員配置を変えようと思います」
小堀はうなずいて先を促す。
「まず、懐柔さんの担当していたノーフィティケーションは、宣託さんにお願いしようと思います。宣託さんが担当していたトリアージは、これから志路さんに兼任してもらいます。その代わり、インシデントマネージャーの役割を、少し虎舞君に修行させようと思います」
「良いことだな。宣託君は申し分ないだろう。虎舞君も志路君のポジションができることでモチベーションがあがるだろう」
「次に折衷さんの担当していたセルフアセスメントですが、これは原則さんが残っているので大丈夫です。ただ、最近はいろいろな法律で資産管理やリスクアセスメントの部分が強く求められていますので、一人では足りません。ここに新しい人の追加をお願いします。ITに詳しくなくても構いません。GDPRプロジェクトに関わった人や、社内のISO14001(注)の事務局経験があればなんとかなります」
注:ISO14001:環境マネジメントシステム(Environmental Management System)
鬼門明徴:プログラムの作りや機械語に興味を持つ。優秀ではあるが、オタクな性格。システム部が作ったプログラムの欠陥をよく見つけてしまうため、孤立することも多い。ソリューションアナリストからは煙たがれ、独自の世界で生きるリサーチャーに憧れている。実家はお寺。占いにも造詣が深く、女子にモテるが、守社からはパシリ扱いされている
小堀はなるほどという顔をしている。
「最後に、CSIRT自体の将来に向けて、深淵さんの後継を育てたいです。幸い、鬼門君がリサーチャーに興味を示していますので、深淵さんのところで少しずつ学ばせたいのですが、いかがでしょうか。その代わり、鬼門君が担当している脆弱(ぜいじゃく)性診断士を新しく募集する必要があります。社内からの移動でも、新卒や中途採用でも構いません。道筋さんのサポートができれば、なお良いです」
「分かった。人事部長にも掛け合っておく。将来への重要な布石だ」
小堀ははっきりと断言した。
【第14話(後編)へ続く】
イラスト:にしかわたく
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