システムを統合したら運用要員が5分の1に 2社合併のリンクアカデミーに見る「組織と基幹システム統合」のメリット(2/2 ページ)
かたやPCスクール、かたや老舗の資格教育……歴史も文化も、社員の平均年齢もまるで異なる2つの企業が統合して生まれたリンクアカデミーでは、どのように組織の、そして基幹システムの統合を進めたのだろうか。
基幹システムの統合でリアルタイムな数字を可視化、改善が加速
リンクアカデミーではこうしたプロセスを踏まえた上で、システム統合も進めていった。実は統合後もしばらくは2つの基幹システムが並行して動いており、特に大栄教育システム側のシステムでは、それぞれの校舎ごとにいったん受講生の契約状況などをExcelのデータとして吐き出し、それを本部に集約して統合する手順が必要で、「Excel職人がいないと作業が進まない」という課題があった。
その上、「問い合わせから来校、入会までのプロセスを把握し、どの程度、入会につながったかという数字がマネジメントのベースになりますが、2つのシステムが並行して走っていたため、その数字がタイムリーに分からないことが経営課題となっていました。手作業で2つのデータベースをつないでいたため、今の状況を知りたくてもタイムラグが発生する上、作業ミスが発生して正確性に欠けることも課題でした」(横山氏)。同社ビジネスの核である教育・受講生支援という軸で見ても、受講者一人一人が何回受講し、カリキュラムの進捗状況はどの程度かを把握するのに時間がかかっていた。
こうした数字をリアルタイムに把握する手段はないか――。リンクアカデミーでは幾つかの選択肢を検討し、最終的に親会社が使っていたSalesforceとクラウドアプリケーションプラットフォームのHerokuの組み合わせを採用することに決めた。
「『親会社が入れているから』ではなく、業務の在り方、仕事のやり方を整理統合した上で、短期間でスケーラブルにできる仕組みに入れ替えたもの」だと、導入支援を行ったサンブリッジの取締役兼CHO(最高人事責任者)、梶川拓也氏は説明している。
移行に当たってはさまざまな作業が発生した。サンブリッジの協力を得て要件定義などはスムーズに進んだものの、受講生のデータ移行には苦労したという。アビバと大栄教育システムとでは「前受金をどのように会計に反映するか」といった考え方が全く異なる上、もともとのデータ自体に抜けや漏れがあったため、そこを補いながらのデータ移行作業では担当者がずいぶん苦労したそうだ。
だが、ひとたび統合して移行が終わった今は、その効果を実感しているという。「Herokuで構築した出席管理システムに受講者がログインすれば、その瞬間に売上明細がSalesforce上に登録されます。ボタン一つで、デイリーどころかリアルタイムに、受講回数や売上集計といった数字が仕分けまで含めて出るようになり、これが効率化につながっているのです」(横山氏)
その結果、経営判断のスピードも上がった。「以前は、一度会計を締めてみないと広告宣伝の効果がどのくらいあったかが分からず、次の打ち手も決められなかったのですが、今では、Salesforce上で予測よりも良い数字が出ていると分かれば、次月の広告宣伝をどうするかをすぐ決められます。売上予測や進捗がスピーディーに分かるようになっただけでなく、PDCAも速くなりました。本社の意思決定が1〜2週間ずれると、現場の動きはもっと大きく変わるため、これが一番大きな効果ではないかと考えています」と横山氏は述べている。
受講生に向けた教育の質の向上にも期待している。横山氏は「受講者の受講パターンも全てSalesforceに蓄積されるので、エビデンスを元に、類似の受講生のパターンと比較して『ここがつまづくポイント』『この資格を取得するなら、このペースで受講すべき』といった具合に適切に受講者を支援できる」と述べている。
情報システム部自体にもメリットはあった。基幹システムの運用を簡素化できたことだ。従来はアビバ側で約10人、大栄教育システム側でも数名かけて運用していたが、「今は2人で運用できており、基幹系システムの管理効率は劇的に上がったと感じている」(横山氏)
リンクアカデミーではコールセンター業務の効率化にもSalesforceを採用している。「CTI(Computer Telephony Integration:電話とPCを連携し、効率化するためのシステム)と連携し、電話がかかってくると過去の履歴が表示され、その人とどんなやりとりがあったかを把握できる。このため効率化が進み、人数は20%減らしたのに、校舎への来訪数は120%向上した」(横山氏)
データ活用で生涯の学びを支援、学習習慣プラットフォームの実現へ
「i-Company」というビジョンの下、組織の統合、システムの統合を進めてきたリンクアカデミーでは、引き続きその方針を推進し、AIを活用した学習支援も視野に入れているという。
「無料動画などでも学習が可能になった現在、ティーチングよりもコーチングの方に価値があると考えている。モチベーションを維持し続け、伴走する形で受講者を支援する、もっと本格的な『学習習慣プラットフォーム』を作りたい」と横山氏。その取り組みの中で、いっそうデータの活用を進めていくという。
【聞き手:後藤祥子、高橋睦美】
関連記事
- システム更新の見積もりが億単位? ならば自分たちの手で 信州ハムはどうやって9カ月で基幹システムを内製したのか
“時代に合わせて常に変化し続けなければ持続的な成長ができない”という大きな危機感と、億単位のシステム更新の見積もりを受け取ったことから信州ハムが踏み切った“基幹システムの内製化”。9カ月で導入を果たすまでの難関の数々とは。 - 1年半でシステム刷新のクックパッド、怒濤の「5並列プロジェクト」に見る“世界で勝つためのシステム設計”
海外展開を視野に入れ、“世界で勝つためのシステム構築“に取り組むことになったクックパッド。海外企業を参考にプロジェクトを進める中、日本企業のシステムとそれを支える組織との間に大きな差があることを認識した同社は、どう動いたのか。また、分散と分断が進み、Excel職人が手作業で情報を連携している状態から、どのようにして統合された一貫性のあるシステムに移行したのか――。怒濤のプロジェクトの全容が対談で明らかに。 - 経営の数字を変えないIT投資は意味がない ライザップIT部門のトップが語る「これからの情シスの役割」
「システム投資をする上で私自身がとても重要視しているのが、経営の数字をいかに変えていくか”。これを徹底してやってきた」――。これがライザップのIT部門を率いる岡田章二氏のポリシーだ。同氏は難しいといわれる“経営と一体化したIT投資”をどうやって実現しているのか。 - プロ経営者 松本晃会長の下、現場では何が起きていたのか――カルビー大変革の舞台裏
日本を代表するプロ経営者として知られるカルビーの元会長、松本晃氏。同氏がカルビーの経営に大なたを振るったとき、人事やIT部門はどんな施策でそれに対応しようとしていたのか。現場の取り組みに迫った。 - 現場スタッフが“Excel脳”から“データベース脳”に バリューコマースは、Excel職人が活躍する世界をどう脱したのか
会社のあちこちでExcel職人が活躍し、情報の分散と分断が起こってしまう世界からバリューコマースはどうやって抜け出したのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.