東大卒、デュポン、メルカリ経由で梨農園に飛び込んだ 「畑に入らない農家の右腕」の正体:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(4/4 ページ)
栃木県にある梨農園「阿部梨園」が今、大きな話題を集めている。その理由は、畑に入らずに業務改善を続けるマネージャーの佐川さんだ。東大を卒業し、化学メーカーやベンチャーに勤めるなど“農家”としては異色の経歴を持つ彼が、梨農家に飛び込んだ理由とは。
スタッフから「業務改善のアイデア」が出てくるように
業務や経営の改善と言っても、佐川さんが手を付け始めたのは、事務所の掃除やごみ箱に分別のシールを付けるといった、小さなことからだった。他のスタッフと一緒に事務所のレイアウトを考えたり、掃除用具を買いに行ったり。最初はあまり反応がなかったが、徐々にスタッフから、業務の困りごとや改善のアイデアが出てくるようになってきた。
「一番良かったのは、実は事務所をキレイにしたことです。目に付くところから変えたのは、他のスタッフに対してもメッセージになりました。多分、僕がPCに向き合って数字だけをいじるとか、スタッフから見えないことだけをやっていたら、『みんなの仕事をする環境を変えていこう』という雰囲気にはならなかったと思います」(佐川さん)
他にも作業マニュアルを作ったり、梨の樹の配置図である「圃場マップ」を作ったりと、可視化や情報の共有を進めた。作業の引き継ぎが早く、正確になったほか、スタッフ間のコミュニケーションも活発になったという。最終的に4カ月のインターン中には改善の数は100には届かず、70程度で終わったものの、改革の手応えを感じられるものだった。
「もちろん、失敗した施策も多々あります。スタッフのみんなが乗り気じゃなくてやめたとか、そもそも僕の見立てが間違っていたものもありました。例えば、短期で働くスタッフも含めたコミュニケーションの活性化を狙って、名札の着用を全員に勧めたことがありましたが、年配の方から『首にものを掛けること自体が嫌だ』という声が挙がって中止しましたね。気取り過ぎたり、理想主義になったりするとうまくいかないように思います。できる部分、できるレベルから始めるのがコツかなと」(佐川さん)
そして、4カ月のインターンが終わった後も、引き続き阿部梨園に関わり続けたいと思った佐川さんは、正規雇用の志願書を用意し、阿部さんに今後のビジョンをプレゼン。阿部さんも喜んでそれを受け入れ、2015年1月、佐川さんは正式に阿部梨園の一員になった。「畑に入らない農家の右腕」が生まれた瞬間だ。
こうして、生産は阿部さん、経営企画や事務など生産以外の面は佐川さんが担当するという、二人三脚の運営が始まった。その後は、従業員の待遇改善や売り上げの向上といった、インターン時代では手を付けられなかった、より大きな課題の改善へと佐川さんは舵を切ることになる。
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