機械学習で術前の血液検査データから卵巣がんの特性を予測――理研の共同研究チームがAIを開発
理化学研究所の共同研究チームが開発した「卵巣がんの術前予測アルゴリズム」を用いると、術前の血液検査データから高い精度で卵巣腫瘍の良性、悪性の区別や、予後と強く関連する早期卵巣がんのクラスタを予測できる。
理化学研究所(理研)は2019年4月15日、同研究所科技ハブ産連本部健康医療データAI予測推論開発ユニットでユニットリーダーを務める川上英良氏らの共同研究チームが「卵巣がんの術前予測アルゴリズム」を開発したと発表した。同アルゴリズムは、AI(人工知能)を使って血液検査データを処理することで、卵巣がんの罹患(りかん)やその特性を予測する。理研では、予測、個別化医療に向けたがんの術前診断に貢献するとしている。
同研究チームでは、東京慈恵会医科大学で2010〜2017年に治療された卵巣腫瘍患者(悪性卵巣腫瘍334人、良性卵巣腫瘍101人)の、診断時の年齢や術前血液検査データ32項目のデータを用いた。これらのデータを機械学習の1種である「ランダムフォレスト法」によって処理し、悪性腫瘍と良性腫瘍を予測したところ、予測の精度の指標となる「ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線」の「AUC(Area Under the Curve:ROC曲線下面積)」が0.968になったという。同じデータを従来の統計的手法である「多変量ロジスティック回帰」で処理した場合のAUCは0.897。理研は、今回開発した手法では、非常に精度良く予測できたとしている。ROC曲線は診断検査の有用性を評価する指標で、AUCは正確さを表し、最高が1.0である。
さらに、同じ術前血液検査データを使ってがんの進行期(早期がんまたは進行がん)や組織型などを予測したところ、進行期はAUC=0.760という比較的良い精度で予測できた。加えて、既知の腫瘍マーカーだけでなく、炎症の指標とされるタンパク質である「CRP(C-Reactive Protein)」や、組織損傷の指標となる「LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)」も重要であることが分かり、進行期と炎症との関連が示されたとしている。
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