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リーダーに大事なのは「IQより愛嬌」? 変革の大敵、“変わりたくない人々”を巻き込む方法CIOへの道【フジテックCIO 友岡氏×クックパッド情シス部長 中野氏スペシャル対談】(1/4 ページ)

企業の変化を妨げる「変わりたくない人々」。CIOはどうやって彼らを納得させればいいのか。

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クラウド、モバイル、IoT、AIなどの目覚ましい進化によって、今やビジネスは「ITなしには成り立たない」世界へと変わりつつあります。こうした時代には、「経営上の課題をITでどう解決するか」が分かるリーダーの存在が不可欠ですが、ITとビジネスの両方を熟知し、リーダーシップを発揮できる人材はまだ少ないのが現状です。

今、ITとビジネスをつなぐ役割を果たし、成功しているリーダーは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、どんなことを信条として生きてきたのか――。この連載では、CIO(最高情報責任者)を目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、ITとビジネスをつなぐリーダーになるための道を探ります。


フジテック 常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二氏プロフィール

1989年松下電器産業(現パナソニック)入社。独英米に計12年間駐在。ファーストリテイリング業務情報システム部の部長を経て、2014年フジテックに入社。一貫して日本企業のグローバル化を支えるIT構築に従事。


クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 中野仁氏プロフィール

国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤をシンプルに構築し直すプロジェクトを敢行した。2018年、AnityAを立ち上げ代表取締役に就任。システム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。


 「日本にCIOという職業を確立させる、それが私のミッション」――。その言葉通り、日本全国津々浦々の“お座敷”で講演を行い、CIOの必要性を説いているのがフジテックのCIO、友岡賢二氏だ。CIOが果たすべき役割とは何か、選ばれるためにはどんな経験や考え方が必要なのか――。

 前回のテーマ「企業にCIOが必要なこれだけの理由」に続いて、今回は「抵抗勢力の巻き込み方」というテーマで話が進んだ。

Photo
フジテック 常務執行役員デジタルイノベーション本部長の友岡賢二氏(画面=右)とクックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長の中野仁氏(画面=左)

情シスの立場を向上させるにはどうしたらいい?

中野 私もレガシーな会社での情シス歴が長いんですけど、一番きついのは日常の運用業務に忙殺されてしまって、新しいことをやる余裕がない状況ですね。そういう状態から小さなアーリーサクセスを出そうと思っても、そもそも投入できるリソースが少ないので、小さなインパクトしか出せない。

 しかし、小さなインパクトだと、「ふーん。それで?」という反応しか得られないことも多い。そういった場合はどうするのがいいと思いますか?

友岡 まずは、「どれだけの従業員にリーチできるか」という「リーチの幅」を意識することですね。例えば、営業部門300人にしかリーチできないものを作るより、全従業員1万人にリーチできるものを作った方が、確実に大きなインパクトを与えられますよね。ですから、限りのあるリソースをどの領域に投入するか考える際には、なるべく全従業員にリーチできるようなポテンシャルを持つものを選ぶ方がいいですね。

中野 なるほど。そういう意味では、基幹系システムより情報系システムの方がやりやすいですよね。その発想で、以前いた会社でOffice 365を導入しました。コラボレーションツールは、システムよりツールとしての側面が強いので手離れしやすいし、構築費用もそんなに掛からないにもかかわらず、社内に与えるインパクトが大きい。

 もっとコンパクトなソリューションとしては、例えばWeb会議システムなどが適しているでしょうね。Zoomとかですね。最近だとSlackのようなビジネスチャットもそうですね。新しく情シス部長になった人が、アーリーサクセスを得やすいシステムといえば、そのあたりが定石でしょうか。

友岡 そうです。いわゆる「ローハンギングフルーツ」、つまり「すぐに取れる果実」ということですね。フジテックで僕が最初にやったのは、G-Suiteの導入推進でした。それまで社員はメールをPCでしか見えなかったところを、モバイル端末、しかもBYODで使えるようにしてあげて、「AppleでもAndroidでも何でも好きな端末使っていいよ」としたんです。そうしたところ、やっぱり「お、変わったな」と実感したもらえたみたいです。

 ちなみに、社員のモバイル端末をBYODで使えるようにするために、Wi-Fi環境を徹底的に整備しました。全国で100箇所の以上の拠点があるんですけど、工場でも営業所でも倉庫でも、必ずWi-Fiが使えるようにしました。しかも同じアクセスポイントで、イントラネットだけではなくて、お客さん用のゲストWi-Fiにもすぐつなげるようにしています。これなら社員も通信コストを節約できますから、皆BYODで喜んで使ってくれます。こうやってクラウドとモバイルをうまく組み合わせることで、情シスが変わるきっかけも作れるわけですね。

中野 確かに、クラウドがあったからこそできることですよね。クラウドサービスが普及する以前でしたら、こうはいかなかったでしょうね。「イニシャルコストが高い」「ランニングコストが高い」「人を投入しないとダメ」「これはやっぱり無理だね」ということになってしまう。

友岡 かつ、導入した後も、使える機能を制限するようなことはなるべく避けています。G-Suiteの主な用途はメールとカレンダー、オンラインストレージなんですが、当初はほかの機能、例えばメモ書きができる「Google Keep」やチャットができる「Google Hangouts」などは利用禁止にしていたんです。でも「そんなの禁止する必要ないじゃん。開けろ、開けろ!」と言ってどんどん使えるようにしました。SNS機能の「Google+ 」も社内開放して、誰がどんな用途で使うかはさておき、とにかく使えるようにする。そうすると、やっぱり社内でとがった人たちは、どんどん使いこなすようになるんですね。その後、全員が使えるようになるまでには、やっぱり時間がかかるんですけど、そもそも全員が使わないといけないとも思っていません。

 また、G-Suiteを導入すると必ず出てくるのが、「Microsoft Officeとどっちを使えばいいんですか?」という質問なんですけど、これに関してはもう「好きな方を使っていいよ」と言っています。別に全員が同じものを使う必要性はないし、「あっちかこっちか」という議論はなるべく避けたいと思っているんです。

 とにかく、新しいものをどんどん取り入れていく。チャットツールも、Google Hangoutsを使っている人もいれば、開発メンバーの中にはSlack を使っている人もいるし、別に異なるツールが混在していても問題ないという考え方です。下手にガバナンスをきっちり効かせようとすると、かえってシャドーITを助長することになりかねませんから、逆に「認めた上で管理する」というやり方の方が楽だと思います。

中野 利用を禁止しても、結局皆あの手この手を使って使ってしまいますしね(笑)。Web系の大きな会社の話を聞くと、「社内でチャットツールが氾濫し過ぎている」という悩みをよく聞きます。2、3種類ならまだ可愛い方で、中には16種類のチャットツールが使われているという会社もありました。10を超えると、さすがにガバナンスを効かせないとまずいことになりますね(笑)。でもこれは、社員のITリテラシーが高いWeb系企業だからこそ起こる現象だと言えます。大抵の企業では、まずそこまでは行かないはずです。

友岡 僕から見れば、それはむしろ、ぜいたくな悩みですね。そういう「良質なコンフリクト」が起こりやすいように、多様性を認める“隙”のようなものを作ってあげる。そういう取り組みが重要なのではないかと思うんです。

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