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データ分析が得意な人はどこにいる? 具体的な分析のステップは? 専門家が解説AI人材育成に欠かせない、たった1つの視点(2/2 ページ)

AIによるデータ分析の勘所を持つ人はどこで発掘できるのか。またデータ分析プロジェクトの具体的な進め方やポイントは? ビジネスの現場で役立つ知識をデータサイエンティストが伝授する。

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ビジネスにおけるデータ分析の実践

 これまでの連載および本記事前半を通して登場した、「数理的素養」「分析目的」「分析目標」「数学的思考力」「合理的判断」といったキーワードは、実践のデータ分析とどのように結び付くかイメージしづらいかもしれない。データ分析のプロジェクトにアサインされた人たちは、何をすればいいのだろうか?

 ビジネスの現場でデータを使う場合、その用途として「データの可視化、レポート化」「業務改善・効率化」「インサイト発見のためのデータ分析」が挙げられる。今回は、ケプラーが膨大な観測データから法則を発見したように、「インサイト発見のためのデータ分析」をするプロジェクトを例にとり、プロジェクトの各フェーズでどのような作業が必要なのかを解説する。

 まずはプロジェクトの状況を整理しよう。豆蔵は状況を整理する際、以下で紹介するようなデータ分析支援用のフレームワークを使用する。これと並行して、業務担当者に業務の内容もヒアリングする。

(1)背景・目的シート


図1 背景・目的シート(出典:豆蔵)

 データ分析プロジェクトの背景、目的を記述することで、「分析目的」を明確にする。よく言われることであるが、データ分析は手段であって目的ではないため、プロジェクトの目的をしっかり決め、プロジェクトメンバーで共有することが肝心である。

 分析目的の例としては、「商品の売り上げを伸ばす、又は予測する」「今後の方向性を決めるために、影響を及ぼしている要素を調べる」「カテゴライズやセグメント分けをする」といったものがあるだろう。

さらに、

  • プロジェクトを行うことで得られる想定効果
  • プロジェクトを完了したと見なす達成指標
  • プロジェクトに関連する部門目標
  • プロジェクトの達成時期

を整理して、記述する。

(2)課題・対応案シート


図2 課題・対応策シート(出典:豆蔵)

 業務の課題を整理し、要因分析(原因のブレークダウン)を行う。要因分析をした課題に対して、対策案や仮説を記述する。課題と対策の整理ができたら、今回対象とする課題を選定し、その対策案を明記しておく。この対策案を実施することが、今回のプロジェクトの「分析目標」である。分析目標の例としては、「売り上げ予測の精度を○○%向上させる」「複数ある要素のうち、○○%以上の影響を及ぼしている要素を見つける」「項目Aと項目Bの相関度を定量的に評価し、同じグループとして扱ってよいか評価する」といったものが挙げられる。

(3)データシート


図3 データシート(出典:豆蔵)

 (2)課題・対応案シートで整理した、対策案を実施するために必要なデータを整理する。具体的には、データの概要、項目、オーナー、作成者、取得期間、粒度などを記載して、どういったデータを取り扱うかを整理する。前述した分析目標に対して表1のようなデータが考えられる。後の分析作業でデータが追加される場合は、情報を追加しておく。


表1 分析目標と想定される必要データ(出典:豆蔵)

 次に、(2)課題・対応案シートで整理した対策案を実施するために、事前分析や仮説立て、本分析、インサイトの発見および検証といった作業をする。

  • 事前分析:データシートで整理したデータの可視化、値の確認を行い、どういったデータがあるかの把握を行う。
  • 仮説立て:業務ヒアリング、事前分析から、分析目標を達成するための対策案を実施した際に予想される仮説を立てる。例として、表2のような仮説が考えられる。
  • 本分析(対策案の実施):立てた仮説が正しいか、データの可視化、相関関係の調査、グルーピング、検定などを実施する。
  • インサイトの発見、検証:本分析から、合理的に言える結果を整理する。結果が本当に正しいかどうか検証を実施する。

表2 分析目標と予想される仮説(出典:豆蔵)

 このようなことがデータ分析のプロジェクトで、実際に行っている作業である。事前分析や本分析では、数値化されたデータを理解するために「数理的素養」が求められる。また、仮説立てから本分析、インサイトの発見の流れには、「数学的思考力」の4項目である「定義をする」「問題を分解する」「逆の視点で考える」「物事を抽象化する」(前回の連載記事参照)と「合理的判断」を下すためのロジカルな思考能力が必要となってくる。

データ分析の理念と実践

 データサイエンティストについてはさまざまなことが語られ、具体的かつ重要な観点で語られている質の高い記事が多数ある一方で、ときにはデータ分析など全くやったことがない人が書いているのではないだろうかと疑われるような、現場とは懸け離れた観念的な記述に終始しているものもある。

 データ分析者は手を動かして結果を出さなければならない。一方、分析と名の付く作業をすれば何でもよいのではなく、何のために分析をやっているのか、どのデータをどう分析することで目的にアプローチするのかを常に意識する必要がある。そういった、プロジェクトの全体像を見失わないようにすることと、そのためにどのように手を動かしたらよいかを把握することのバランスが、AI人材に求められている重要な要素であろう。

 ちなみに、データ分析をする職業に華やかなイメージを持つ人もいるかもしれないが、著者は非常に「やることが多く」大変な職業だとも感じている。現場へのヒアリングや調整、データ分析につながる地道な作業を積み上げることではじめて役立つ知見を得られるため、実際にはイメージと異なると感じる場合もあるだろう。

 これまでの連載で、デジタル化、すなわち数値化する社会において求められる人材像、思考方法、そして実践について解説してきた。AI人材の育成や確保に悩む読者の参考になれば幸いだ。

企業紹介:豆蔵

情報化業務の最適化とソフトウェア開発スタイルの革新を推進するコンサルティングファーム。デジタルトランスフォーメーション関連ソリューションでは、ビジネスのデジタル化による事業の効率化、競合優位への判断、新製品や新サービスの創出に求められる高度なデータ解析、AI/機械学習に関するコンサルティングや人材育成を提供する。

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