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法律と効率、顧客のためにどう折り合う? 2週間かかった住宅ローン契約を「実印ほぼ廃止」で1日にした銀行が考えたこと週末エンプラこぼれ話

デジタルの時代、職場からなくならない「印鑑フロー」に悩むのは銀行も一緒だ。契約書処理の負担に悩んでいたソニー銀行は、住宅ローン契約から実印と印鑑証明をほぼなくして電子サインに移行した。当初行内からはためらいの声も上がったというが、法的な証明能力と効率性のバランスを維持する方法を、同行はどう見つけたのか。

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 オンラインで各社がしのぎを削る銀行業界。スマートフォン1台あれば簡単にクレジットカードが作れる時代に、顧客にどれだけ便利なサービスを提供できるかがビジネスの行方を左右する。口座開設や振り込みといった手続きがほぼ電子化された一方、実印が必要なローン申請の手続きには、まだ対面のプロセスや書類の郵送が必要な場合も多い。

 そんな中、実印を押した書類や印鑑登録証明書(以下、印鑑証明)が必須だった住宅ローンの契約手続きをほぼ電子サインに切り替え、2週間かかっていた手続きを1日に短縮したという銀行がある。2001年に開業したインターネット銀行のソニー銀行だ。


住宅ローン契約に電子サインを導入したソニー銀行の重田浩治氏と清水陽介氏

 実印と印鑑証明の組み合わせは、民法上、本人が契約したことを“鉄壁”の効力で示す重要な証跡になる。行内からは「(電子サインで)これまで通りの証跡を確保できるのか」と懸念する声が上がったという。それでも同行が電子サイン導入に踏み切ったのはなぜなのか。

「1件の処理に2週間、2割はやり直し」 住宅ローン審査が時間との戦いになった理由

 2002年から住宅ローンを扱うソニー銀行。対面型の店舗を持つ銀行とは違い、顧客と行員が対面せずに契約を進める手法は当時としても「先進的なフローといえた思います」と、同行の重田浩治氏(ローン業務部 副部長 兼 業務企画課長)は語る。しかし、従来はそれでも紙の契約書類を郵送でやりとりしていたため、契約完了までに平均17日間かかっていた。

 住宅ローンを契約する際は、大まかにいえば「住宅ローンの契約書」「物件への抵当権を設定する契約書」の2つが必要だ。抵当権を設定する契約書には法律上必ず実印が必要なため、ソニー銀行は現在、顧客に同行が指定した司法書士と会って対面手続きの形で書類に実印を押してもらい、印鑑証明を提出する。

 一方、住宅ローンの契約書は、従来は銀行側が送った専用の書類に顧客が住所と名前を書いて実印を押し、印鑑証明を付けて返送してもらう――というやり方だったが、そこで2点の問題が発生していた。


ソニー銀行の重田浩治氏

 1点目は“なつ印の失敗”だ。たった1人で普段押し慣れない実印を指定の場所にきれいに押す作業は、意外に失敗率が高いという。重田氏は「銀行側で受け取った契約書のうち、2割くらいは実印の押し直しが必要で、書類を送り直していました」と話す。

 2点目の問題が、提出された実印と印鑑証明の照合作業だ。紙で住宅ローン審査を実施していた際、1つの書類には実印を押す場所が5〜6カ所存在し、当時はそれを印鑑証明を使って行員が目で照合していた。

 これがもしいわゆるメガバンクならば、実印の照合を専門で担当する部門に書類を集約する方法もある。しかしソニー銀行は行員約500人のいわゆる“中小企業”。動かせる人数には限界があった。

 「住宅ローンを扱う120人程度のチームで、年間1万件くらいの書類を照合していました。間違いを防ぐため、1件の書類を複数の人間の目でチェックしていましたが、1人で担当できるのは1日2〜3件が限界でした」と重田氏は話す。

 そうした書類を郵送でやりとりしなければならなかった点も、時間の制約に拍車を掛けた。例えば、月曜日に受け取った書類を数日間かけて審査した後に再提出が必要になった場合、金曜日に顧客に郵送して週末に書き直してもらったとしても、再度顧客から郵送されて同行に届くのは月曜日以降になってしまう。

 顧客にとって住宅ローンは時間との戦いだ。不動産業者と取り決めた物件の購入期日までに銀行からローンが降りなければ、購入できなくなってしまうリスクがある。

 「特に、既に物件が完成していて人気が高い、中古マンションのような物件を購入されるようなお客さまは、その点を考慮されて(対面ですぐに手続きが済む)メガバンクにかたよりがちだったと思います」(重田氏)

法律と効率、顧客のためにテクノロジーでどう折り合うのか

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