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「ムーアの法則」は、もう超えた――爆速で量子コンピュータ開発を進めるIBMの野望

ここ数年で急速に研究が進む量子コンピュータ技術。その先陣を切るベンダーの1社がIBMだ。研究だけでなく実用化に向けた連携や次世代の人材育成にも注力する。ムーアの法則を超える「1年で性能を2倍に」という猛スピードで進む開発の現在地と、その目的地とは。同社で研究に携わる関係者に聞いた。

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 数年前には遠い未来の技術だと思われていた量子コンピュータが、いよいよ産業界で実用化されようとしている。その流れをけん引しているのがIBMだ。

 IBMは、量子技術の基礎研究や、量子コンピューティング関連のハードウェア開発、ソフトウェアの開発に長年取り組んできた。加えて、実用化に向けた事業開発や「量子ネイティブ」と呼ばれる、量子コンピュータ技術に精通した人材の育成にも力を注いでいる。これらの取り組みはどこまで進んでいるのか。また、その先の将来を同社はどう見据えているのか。関係者の発言から、IBMが挑む量子コンピュータの現在を追った。

1970年代に始まった、IBMの量子コンピュータ開発の現在地

 量子コンピュータは、1と0が混在している量子bitを基本単位とし、古典コンピュータでは不可能だった「量子重ね合わせ」や「量子もつれ」「トンネル効果」といった、量子力学に基づく活用が期待できる。例えば量子重ね合わせにおいては、1つの量子bitで2つの状態を同時に表現でき、5つの量子bitでは32通りの状態、10量子bitでは1024通りの状態、20量子bitでは100万通り以上の状態を同時に表現できるようになる。


IBM Q

 現在、IBMは量子コンピュータ「IBM Q」を18台保有し、米国ニューヨーク州のIBM Quantum Computation Centerに設置している。その稼働率は97%を超え、一般ユーザーがIBM Qのリソースを使えるWebサイト「IBM Q Experience」には約24万人が登録している。これまでIBM Qで実行された演算は約1980億回で、その結果を基に235本の科学技術論文が出版された。クラウドでIBM Qの演算能力を提供する「IBM Q Network」には106の組織が参加している。

 IBM Qの応用領域も広がっている。現在、新素材発見や創薬、ゲノム解析といった化学分野、物流やルート探索といった最適化の分野、機械学習やニューラルネットなどのAI(人工知能)分野、量子化学やリスク解析などのシミュレーション分野にIBM Qが活用されている。

 日本IBMの森本典繁氏(最高技術責任者 研究開発担当)は「量子コンピュータの本格的な応用、利用の時代に向けて準備を始めている」と語る。


日本IBMの森本典繁氏(最高技術責任者 研究開発担当)

 IBMが量子コンピュータの研究を開始したのは、1970年代にさかのぼる。量子コンピュータの論理に関する研究から始まり、量子効果を制御する技術が現実になった2000年以降は研究が一気に進展した。2016年には、5量子bitの量子コンピュータを動作させ、クラウドを通じて世界中の研究者が利用できるようにしてきた。

なぜIBMは量子コンピュータに注力するのか――その「必然的な理由」とは

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