金融サービスのUXはどう変わるか、体験と消費の再設計とその指針:これから「透明化」するもの、残るもの
コロナ禍以降の金融機関のサービスはどう変化するだろうか。日本の金融システムのプロがユーザー体験デザインの識者と語った「究極のUX」とは。
2021年1月28〜29日にわたり、NTTデータが年次イベント「NTT DATA Innovation Conference 2021」を開催した。「デジタルで創る新しい社会」をテーマに金融、社会インフラ、製造業、流通業など、さまざまな分野での事例や講演、展示が配信された(2021年2月26日18時までオンデマンド配信)。本稿はその中でも金融機関のDXのためのUXに関するセッションを紹介したい。登壇したのはNTTデータ取締役常務執行役員の松永 恒氏と、THE GUILD代表取締役でnoteのCXOを務める深津貴之氏だ。
深津氏はUXの専門家として知られる。他方、NTTデータの松永氏は20年以上バンキングシステムのエンジニアとしての経験を持つ。マネジメントに転じた現在も金融機関との交流を続けているという。
その松永氏は2020年を「『非接触』と『つながることの重要性』の2つがキーワードとなった1年だった」と振り返り、コロナ禍が金融機関にもたらした変化を次のように整理した。
「2020年はコロナ禍をきっかけに非接触型のサービスが増え、浸透した。複数の非接触型のサービスが出てきたが、それぞれがつながっておらず、どこかで『紙に変換する』というフローが残ってしまった。今後はそれらをつなぐことにさまざまなオポチュニティ(ビジネスの可能性)が生まれると考えている」(松永氏)
深津氏はコロナ禍について「数年を掛けて緩やかなグラデーションで消えると考えられたきたものが1年で一気に消えた。準備できていた企業は一気に変革したが、一方で『まだ先のこと』として準備できていなかった組織や備える体力がなかった組織は一気につらい立場に陥った」と指摘した。
2020年はユーザー行動変化の分岐点、体験と消費の再設計はどうあるべきか
変化への対応が求めらるいま、なぜ金融業界の情報システムのプロフェッショナルがUXを重視するのか。「非接触」「つながること」とUXにはどんな関係があるのだろうか。松永氏は金融サービスのエンドユーザーの行動の変化、サービスの変質を指摘する。
「10年ほど前まで、金融サービスを受けるには『窓口に出向く』ことが前提だった。ところが窓口手続の多くがいまはスマホアプリで代替できる。UXには人の行動様式を変え、社会を変える力がある」(松永氏)
UXという言葉は、狭義のUIにひも付けられた「画面イメージ」やアプリケーションUI設計などを示すと誤解されやすいが、本来はオンライン/オフラインを問わずユーザー体験全体の事を意味する。UXデザインはこのユーザーの体験全てを設計することを指す。UXは人の行動を変え、社会や文化、風習にも影響を与える。このことはスマホの登場で行動様式が変わった多くの人が実体験として理解できるものだろう。UXは「何らかのサービスに触れて、どんな体験をし、どんなエピソードとして消費するかを設計すること」(深津氏)全体を指す大きな概念だ。
従来、費用対効果などの指標を示しにくいUXについて、本格的に投資をしようとする企業は今までそう多くはなかった。だが、2020年を分岐点に状況は大きく変わりつつある。非接触が重視される状況で、ユーザー行動が大きく変わったこと、デジタルの可能性が従来よりも広く多くの人たちに理解されたことが大きな要因と言えるだろう。デジタルネイティブ世代をはじめとした一部の顧客だけでなく、世代や言語、人種などの属性を越えてさまざまなサービスにオンラインでアクセスする状況にある。ここで、接点をもった人たちにどんな体験を提供するかは、ビジネスを成長させる際に無視できないものになりつつある。
深津氏は優れたUXを持つ企業の特徴を次のように整理した。
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