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RPAからハイパーオートメーションへ 業務の自動化を目指すには「10年後に現在のRPAを全てなくす」意識が重要――ガートナー阿部氏(2/2 ページ)

普及期に入ったRPAについて、今こそ「再評価する時期に来ている」というのが、ガートナーのアナリストである阿部氏だ。より高度な業務のデジタル化や自動化「ハイパーオートメーション」を目指すには、今何に着手すべきだろうか。

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ユーザー部門のモチベーションをどう保つ? 

 ユーザー企業からの問い合わせで阿部氏がもう1つ注目する傾向がある。

 「ユーザー部門のモチベーションをどう保つか」「内製化かアウトソースか」といった、市民開発そのものに対する疑問の声だ。

 市民開発には、業務を最も理解しているのが現場であり、ユーザー部門が開発を主導すれば、業務プロセスの改善を含めて企業全体の変革が推進しやすくなるという期待がある。

 「年度による差はありますが、当社に問い合わせされた企業の内7〜8割は、程度の差はあってもユーザー部門に何らかシナリオ開発を担うことを希望していました。 ただ、実際にはユーザー部門がシナリオ開発を手掛けるケースは25%程度で、残りはIT部門が開発したり、アウトソースで対応する状況が明らかになっています。ユーザー部門が自動化推進のモチベーションを保つのは簡単ではありません。また、IT部門からすると全ての現場作業の自動化を担うだけのリソースはない。このような状況では『アウトソース』が選択肢になる。こうなると、RPAを使っていても内製化はできず、RPAによる現場でのラスト1マイルの業務を可能な限り可視化、自動化するのが難しくなってきます。(阿部氏)

 システム的に巻き取れない現場の課題を解決するものがRPAであったのに、RPAがその用をなさずにシナリオ開発の負担ばかりを招くようになってしまっているというわけだ。では、こうした現実に対して、どのような態度で臨んでいけばよいのか。

CoEチーム構築は必須

 阿部氏はまず、RPAの活用という点からは、RPAの中核チーム(CoE:Center of Excellence)を立ち上げることが必要だと強調する。中核チームは、RPAの導入や拡大の推進役であり、標準化作業や社内啓発活動、人材育成、コミュニティーの運営などを担う。

 必要性が叫ばれながらも、まだCOE組織を立ち上げられていない企業も多いことから、まずは、中核チームを推進役として「業務のRPA化を当たり前にできるようするまで」をゴールにする。

 「ポイントは、RPAを活用することで自分たちの業務が楽になったり、新しい取り組みがしやすくなったりすることを現場の人に実感してもらうことです。また、『自分の業務を楽にしたい』と考える人であっても、自分の労力と時間を使って他人の業務の効率化まで手掛けたいと思う人は少ない。モチベーションを保つには、他人の業務を効率化することが評価されたり、承認欲求が満たされたりするような仕組みを整えることも重要です。例えば、取り組みを評価して表彰したり、給与に反映したりする仕組みを作ります」(阿部氏)

「10年後には現在のRPAを全てなくす」という意識も重要

 RPAの導入目的を再検討することも重要だ。例えば、RPAで市民開発のような取り組みをいきなり進めるのではなく、RPAをコンピュータリテラシーの教育ツールの1つなどと位置付けてしまうのも手だ。

 「組織がDXを推進する際には、ITに詳しい人たちだけでは不十分です。非IT部門の人たちがITの重要性やメリットを理解し、DXのためのアイデアを出してくれることが重要です。しかし、そこでRPAを使って現場主導のDXを目指すのは難しい。そもそもRPAで業務を自動化しただけでDXは実現できませんし、RPAだけがDXに寄与するものでもありません。しかし、DXやそれを支える技術の素養を身に付けるために、RPAはいいツールになり得ます。RPAに触れていく中で、ITの仕組みや重要性を理解してもらい、その意識を全社に広め、底上げしていくことで、DXに向けたマインドセットを醸成していくのです」(阿部氏)

 その上で、阿部氏が提案するのは、「RPAの市民開発アプローチのメリットとリスクを正しく理解すること」「RPAを全社展開する場合、メリットがリスクを上回るかを再度検討すること」「CoEの立ち上げと施策立案、実行」「モチベーション維持・向上のためのリテンションプログラムなどの実施」「採用するRPAツールについてベンダーのロードマップを確認し戦略を立案する」などだ。

 さらに阿部氏は、RPAの取り組みを突き詰めれば「ITリテラシーやテクノロジーの素養を身に付けた人が育ってくればRPAは必要ない」とさえ言えるようになると指摘する。

 「今、多くの企業がRPAで実現している機能が、5年後、10年後もまったくそのままの形で残っていたとしたら、むしろその方が問題です。技術は日々進化していますし、その技術をきちんと活用すれば、業務プロセスの在り方も日々進化していくはずです。むしろ『10年後には現在のRPAを全てなくす』という意識で取り組みを進めることが重要ではないでしょうか」(阿部氏)

 RPAが幻滅期にはいった今こそ、改めてRPAの見直しを進めたいところだ。

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