日本のIT投資、いち早く回復する業界はどこか――富士通、NEC、NTTデータの受注状況から見えた明暗:Weekly Memo(2/2 ページ)
コロナ禍が長引き、各産業分野への打撃も尾を引く中、その回復状況のバロメーターともいえるIT投資がどう推移するかが注目される。日本を代表する大規模なIT事業者3社による四半期決算発表からは、業種別の回復傾向が少しずつ見えてきた。
NEC社長が語った「業種別のIT需要動向」低調、好調の境目は?
次に、NECが2021年7月30日に発表した同四半期の受注状況は、全社で前年同期比2%減となった(表2)。事業分野別に見ると「ネットワークサービス」が5G基地局の需要拡大で同19%増となり、「エンタープライズ」が企業のシステム投資の回復基調によって同17%増だった。「社会公共」が同4%増とプラスだったが「社会基盤」が同4%減で、「グローバル」が同47%減と大幅なマイナスとなった。
ちなみに、全社の2%減については、グローバルにおいて大型案件の有無で変動が大きい海洋分野と、今期で非連結分野となったディスプレイを除くと「9%増」となり、受注状況として堅調に推移している形となる。
この受注状況について、同社の森田隆之氏(代表取締役執行役員社長兼CEO)は特に業種ごとの動きについて、オンラインの発表会見で次のような見方を示した。
「最も好調なのは金融向けの事業だ。流通向けもコンビニエンスストアを中心に回復傾向が顕著になってきた。製造業についてはゆっくりと回復基調にあり、私の感触ではフラットな状況から再び悪化することはないと考えている。さらに、中央官庁の需要も堅調に推移している」(森田氏)
その一方で、同氏は「コロナの影響が大きい運輸などの分野は厳しい状況が続いている。また、地方や中小企業という観点でもコロナの影響は深刻だ」とも述べた。
NTTデータ社長は「デジタル庁」の影響にも言及
最後に、NTTデータが2021年8月5日に発表した同四半期の受注状況は、全体の合計で前年同期比4.2%減の5898億円となった(表3)。同社の事業分野別では「公共/社会基盤」が前年同期比154億円減で比率だと8.9%減、「金融」が同399億円減で比率23.3%減、「法人/ソリューション」が同53億円増で比率6.2%増、「北米」が同68億円減で比率8.8%減、「EMEA(欧州/中東/アフリカ)、中南米」が同288億円増で比率28.4%増だった。
国内における業種ごとの増減要因について、同社は公共/社会基盤は「前期に獲得した中央府省向けの大型案件の反動減により減少」し、金融は「前期に獲得した銀行向け大型案件の反動減により減少」したとしている。法人/ソリューションについては「製造業向け案件などの獲得により増加」といった点を挙げている。
この受注状況について、同社の藤原 遠氏(代表取締役副社長執行役員)は、オンラインでの発表会見で次のように述べた。
「公共/社会基盤と金融はいずれもマイナスになっているものの、私の感触としてはこれまでとあまり変わらずに推移しており、今後は回復基調になっていくと見ている。法人/ソリューションについては、製造業が回復に向かい始めた印象がある」(藤原氏)
また、会見の質疑応答で、2021年9月1日に発足するデジタル庁の動きに関連した需要について問われた同氏は「行政のDXに関する案件は既に動き始めている。デジタル庁が活動することでそうした動きが活発化することを期待しており、私たちとしてもきちんとした価値を提供できるように尽力したい。ただ、行政の大型案件が本格的に動き出すのはもう少し先になるだろう」との見方を示した。
以上が、直近の四半期決算で明らかになった3社の受注状況だ。コロナの影響で業種ごとに明暗が分かれているのが実態のようだが、そうした中でも「金融はDXに向けて積極的に投資する動きが出てきた」(磯部氏)、「流通もコンビニエンスストアを中心に回復傾向が顕著になってきた」(森田氏)、「製造業が回復に向かい始めた印象がある」(藤原氏)といった明るい兆しもあるようだ。今後も受注状況には引き続き、注目していきたい。
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