クラウドとデータ分野のトレンド予測4選 2023年に企業が取るべきアクションは?:企業トップの提言
2023年、クラウドとデータ分野で予測される重要トレンドにはどのようなものがあるのか。
ITベンダーのトップは2023年の技術トレンドをどう見ているだろうか。ストレージやデータマネジメントの領域を得意とし、近年はクラウド運用にも注力するNetAppの日本法人ネットアップで社長を務める中島シハブ・ドゥグラ氏は、2023年にクラウドとデータ分野で起こる変化を4つ示した。
筆者紹介:中島シハブ・ドゥグラ(ネットアップ合同会社 代表執行役員社長)
イラクのバグダッドに生まれ、ヨルダンやイギリスを経て、来日。これまで30年近くにわたってITの設計やエンジニアリング、サービス、セールス、ビジネス開発などの分野で活躍。横河電機に入社した後、オイル、ガスや化学、電力などの分野の設計、エンジニアリング関連のプロジェクトをリードした経験を有する。さらに、シスコシステムズにおいて約19年間、グローバルアカウントやコーポレート事業、そしてサービス事業における要職を歴任し、ビジネスの2桁成長に貢献。2019年にネットアップ合同会社に代表執行役員社長として入社。海外と日本のスタンダードを理解し、国内だけにとらわれない広い視点を有する。趣味はヒップポップダンス。
1.より優れたハイブリッドのマルチクラウド環境を企業が導入
より多くのサービスがオンプレミスからクラウドに移行するにつれて、ハイブリッドのマルチクラウド環境はその重要性を増しています。IT専門調査会社のIDCによれば、APAC(アジア太平洋)地域の企業におけるパブリッククラウドへの投資は、2023年は前年比で28.3%も増加するとされ、引き続き堅調に推移すると予測できます(注1)。
既にAPAC企業の84%がマルチクラウド戦略を進めていますが(注2)、一方で多くの企業が、「複雑で管理できないクラウドの乱立」「連携が図れないサイロ化した環境」「セキュリティリスク」「コストの上昇」などの課題を抱え、「自社のクラウドが能力を十分に発揮できていない」としています。
企業は、クラウドとオンプレミス環境をシームレスに接続する戦略的なアプローチを採る中で、これらの課題をどのように克服するべきなのでしょうか。
企業は事業を着実に推進できるように、クラウドやオンプレミスにかかわらずデータ管理の複雑さを解消し、サイバー攻撃に対する備える必要があります。また、環境に配慮しながら業務の自動化でコスト削減を実現し、さらに進化したクラウド運用も求められるでしょう。
2.ICT(情報通信技術)のスキル格差への対応
ICT人材のスキル格差は、今後も拡大すると予想されます。APACのIT意思決定者の約62%は、「既にチーム内でスキルギャップが発生している」としており(注3)、企業にとってデジタルトランスフォーメーション(DX)とクラウドの導入は引き続き重要な課題です。その一方で、技術者不足はクラウドにおける新たなテクノロジー導入を阻害する可能性があります。
企業は、マルチクラウドの導入を推進する中で、チームのスキルアップはもちろん、マルチクラウドのアーキテクチャが非常に「複雑」だと認識する必要があります。複数のクラウドとオンプレミス環境を管理することは厄介で非効率です。
2023年はこのような状況を受けて、多くの企業が運用を標準化し、環境やクラウド、ワークロードに特化したスキルの必要性を減らすでしょう。統一されたコントロールプレーンがあれば、ジェネラリストが専門的なタスクをこなし、スキル格差の影響を抑えられます。
3.真のサステナビリティの実現
ESG(環境、社会、ガバナンス)と持続可能性を考慮した経営が注目される中で、企業のITインフラには「環境に優しく、自社のサステナビリティへの取り組みを支える」ことが求められます。
ITベンダーは、より環境に配慮したバリューチェーン(価値連鎖)の構築に加え、サステナブルな成果をもたらすソリューションを提供する必要があるでしょう。また、自社施設やオンプレミス機器のエネルギー効率を高めることも大切です。
さらに、ベンダーはクラウド管理の利点を生かして、データ資産全体を見渡してデータを階層化できるように「より良いデータの分類方法」を提供する必要があります。集積したデータの68%が一度しか利用されないことを考えると(注4)、利用しないデータをクラウドに移し、階層化してコールドストレージで保管することが環境保護につながります。
4.量子コンピューティングを悪用する新たな脅威を未然に防止
普及にはまだ時間を要しますが、ハイブリッド量子コンピューティングはサイバーセキュリティに対する現実的な脅威として浮上しています。サイバー攻撃の手口が巧妙化し、企業はこれまで以上にデータ保護などのセキュリティ対策を強化する必要があります。
かつては「解決不可能」と思われたセキュリティ問題を解決するために、既にセキュリティ業界は新たな暗号化プロトコルやアルゴリズムの開発を促進する方法を探っています。
クラウドテクノロジーの進化が今後も続くことは明らかであり、企業は「データやセキュリティ、マルチクラウドインフラをどこでどのように管理するか」について、先見の明を持つ必要があるでしょう。
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