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不確実な時代に予測するための「データ、アナリティクス戦略」10のトレンド ガートナーが提言

ガートナーは、2023年に注目すべきデータ、アナリティクスの10大トレンドを発表した。不確実な時代における変化を予測し、新たな価値創出につなげるために何に注視すべきか。

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 ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2023年5月15日、2023年のデータ、アナリティクスに関する10のトップトレンドを発表した。

データ、アナリティクス戦略に欠かせない10のトレンドとは

 CDAO(最高データアナリティクス責任者)やデータ、アナリティクス関連のビジネスリーダーが注目するべき2023年のトップトレンドをまとめたのが下の図だ。「これらをデータ、アナリティクス戦略の指針として取り入れることで、変化を予測し、不確実性を新たなビジネスチャンスに変え、新たな価値の源泉を創出できる」とガートナーは説明する。


2023年のデータ、アナリティクスの10のトップトレンド(出典:ガートナーのプレスリリース)

 米Gartnerのアナリスト ギャレス・ハースシェル(Gareth Herschel)氏(バイスプレジデント アナリスト)によると、「組織に認められる価値を広範囲に提供する必要性が、これらのトレンドを後押ししている」という。「データ、アナリティクスに関わるビジネスリーダーは、組織のステークホルダーと協力しながら、データ、アナリティクスの活用を促す最適なアプローチを把握する必要がある。換言すれば、人間の心理や価値観を考慮した上で、分析と知見を拡大、向上させることが求められている」と説明する。

 以下に、データ、アナリティクスの10のトレンドを詳説する。

トレンド1: 価値の最適化

 データ、アナリティクスに関わるビジネスリーダーのほとんどは、データ、アナリティクスが組織に提供する価値を「ビジネス部門が分かる言葉で説明する」ことに苦労している。組織におけるデータやアナリティクス、AI(人工知能)のポートフォリオから得られる価値を統合的に管理する能力がなければ、その価値を最適化することはできない。その能力には「価値のストーリーテリング」「バリューストリーム分析」「投資のランク付け、優先順位付け」「ビジネス成果の測定」などが含まれ、期待される価値を確実に実現できるようにするものだ。

 ハースシェル氏は「データ、アナリティクスのリーダーは、データ、アナリティクスイニシアティブと、組織のミッションクリティカルな優先課題を明確に結び付けるバリューストーリー(ビジネス価値のストーリー)を構築することで、価値を最適化する必要がある」と指摘する。

トレンド2: AIのリスク管理

 AIの利用拡大に伴い、企業は倫理的なリスクやトレーニングに用いるデータの汚染、不正検知の回避といった新たなリスクにさらされて、これらのリスクを軽減することが求められている。AIのリスク管理は、単に規制を順守するだけではない。ステークホルダーとの間で信頼関係を築き、AIの採用と活用を促すには、効果的なAIガバナンスと責任ある取り組みが不可欠となる。

トレンド3: オブザーバビリティ

 オブザーバビリティ(可観測性)は、「データ、アナリティクスシステムの振る舞いを理解できるようにすること」と「その振る舞いに関する疑問に答えられるようにすること」を指す。

 ハースシェル氏によると、「組織はオブザーバビリティによって、成果に影響を与える問題の根本原因を短時間で特定できるようになり、信頼性の高い正確なデータを用いて、費用対効果に優れたビジネス上の意思決定をタイムリーに下せるようになる」という。データ、アナリティクスのリーダーは「ユーザーのニーズを理解し、それに基づいてデータオブザーバビリティのツールを評価して、そのツールが企業のエコシステム全体にどのように適合するのかを判断する必要がある」と分析する。

トレンド4: データ共有は不可欠

 データ共有の対象は、組織の内部(部門間または部門内、あるいは子会社との間)だけでなく、外部(組織のオーナーシップやコントロールが及ばない当事者間または当事者内)をも含む。組織は「プロダクトとしてのデータ」を作成し、データ、アナリティクス資産を成果物あるいは共有のプロダクトとして共有する。

 Gartnerのケヴィン・ガバード(Kevin Gabbard)氏(シニアディレクター アナリスト)によると、「組織の外部を含むデータ共有を通じたコラボレーションによって、データ資産を効果的に再利用し、データの持つ価値を高めることができる。組織内外の多様なデータソースにまたがったデータを共有するための単一アーキテクチャとして、データファブリックを設計して採用すべきだ」という。

トレンド5: データ、アナリティクスのサステナビリティ

 企業のESG(環境、社会、ガバナンス)プロジェクトにおいてデータ、アナリティクスのリーダーは、分析と知見を提供するだけでは不十分で、サステナビリティを向上させるために、データやアナリティクスのプロセスを最適化するよう努める必要もある。これによる潜在的なメリットは膨大といえる。

 データ、アナリティクスやAIに携わる人々の間では、増大するエネルギーフットプリント(環境負荷)への意識が高まりつつある。(クラウド)データセンターでの再生可能エネルギーの利用やエネルギー効率の高いハードウェアの使用、スモールデータをはじめとするML(機械学習)手法の活用など、さまざまなプラクティスが登場している。

トレンド6: 実用的なデータファブリック

 データファブリックは、さまざまな種類のメタデータを活用するデータ管理デザインパターンの一つで、基礎となるデータのセマンティクス(データの持つ意味)を拡充するために、メタデータの状況を継続的に確認することで、人とシステムの両方が役立てられるようなアラートや推奨事項を生成する。これにより、ビジネスユーザーはデータを信頼して利用できるようになり、スキルレベルの低い市民開発者も幅広いデータに対する統合やモデリングが可能になる。

トレンド7: 創発的なAI

 「ChatGPT」などのジェネレーティブAIは、「来るべき『創発的なAI』」のトレンドにおける先駆けといえる。創発的なAIとは、強化学習や連合学習(Federated Learning)と並ぶAI分野における画期的なイノベーションだ。これにより、企業や人類の複雑で緊急性の高い課題に対応可能になる予測だ。

 創発的なAIは拡張性や多能性、適応性という点で、多くの企業の活動に変革をもたらすだろう。組織は、次なるAIの波によって現在では実現不可能な状況でもAIを適用できるようになる。これにより、AIがさらに普及し重要性が増す見通しだ。

トレンド8: コンバージドエコシステムとコンポーザブルエコシステム

 「データ、アナリティクスのコンバージドエコシステム」は、データとアナリティクスプラットフォームのシームレスな統合、ガバナンスの適用、テクノロジーの相互運用性を通じて、それらが「一体的に動作、機能できるような設計とデプロイ」を実施する。「エコシステムのコンポーザビリティ」は、コンポーネントとして構成できるようにアプリケーションとサービスを設計し、それらを組み立て、デプロイすることで実現する。

 適切なアーキテクチャを採用することで、データ、アナリティクスシステムのモジュール性や適合性、柔軟性が高まり、動的に拡張できるようになる。またデータ、アナリティクスシステムの合理化が進み、拡大と変化を続けるビジネスニーズに対応するとともに、ビジネスや運営環境の変化に合わせた進化が可能になる。

トレンド9: 消費者がクリエーターに

 現在、主にBI(Business Intelligence)ツールで実装された事前定義済みのダッシュボードに向き合っている時間は、動的に構成される会話型あるいは組み込み型のユーザーエクスペリエンスに取って代わるだろう。そうなることで、コンテンツ消費者の変化するニーズに対して柔軟に対応できるようになる。

 組み込み型で即時性の高い知見や、会話型のインタラクティブなエクスペリエンスを提供することで、組織におけるアナリティクスの活用と成果の獲得を後押しできる。こうした知見やエクスペリエンスは、コンテンツ消費者がコンテンツクリエーターとなるために必要不可欠となる。

トレンド10: 主要な意思決定者は依然として人間である

 全ての意思決定を自動化することはできず、またその必要もない。

 ハースシェル氏は「意思決定における人間の役割を考慮せずに意思決定の自動化を推進しようとすると、一貫した目的を見失った組織になってしまう。正しいデータドリブンな組織とはいえず、結果的にビジネス成果に悪影響を及ぼすかもしれない」と指摘し、「データリテラシーの向上施策を通じて、データとアナリティクスを人間の意思決定と組み合わせる重要性や価値について、組織全体で理解する」ことが重要だと説明する。

 ガートナーの一志達也氏(シニア ディレクター アナリスト)は「ジェネレーティブAIはデータ、アナリティクスに対しても大きな影響を与えており、この先さらに影響範囲は広がっていく。恐れるのではなく、正確に理解して倫理的に正しく活用し、革新的な新技術の価値を企業活動に反映する必要がある。そのためには、ガバナンスやリスク管理の徹底は避けられない。データ共有やデータファブリックの構築、データ、アナリティクスプロダクトの開発と資産管理が求められる。何より、AIを使いこなす人間としてリスキリングに取り組み、組織の全体的なリテラシー向上を目指すのがデータ、アナリティクスリーダーに課せられた使命といえる」と提言する。

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