生成AIを「万能通訳」として使ってみよう:「AIが卵より安くなる時代」に向けて
生成AIをビジネスでいかに利用するかは、現在のビジネスパーソンにとって喫緊の課題の一つとなっています。筆者は、「生成AIがもっとも活躍するのは翻訳ではないか」と考えています。その理由と具体的な活用方法とは。
この連載について
AI(人工知能)を仕事で利用するのが当たり前になりつつあります。高価だったAIがコモディティ化して「卵よりも安く利用できる」近い将来、「副操縦席」に追いやられないために、われわれは何をすべきでしょうか。
AIをビジネスで生かすべく日々実践している永田豊志さんが、ビジネスパーソンの生産性向上に役立つ情報と、そこにとどまらない、将来を見据えた挑戦のためのヒントをお届けします。
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公私ともに海外とのやりとりが増え、外国語の重要性を改めて肌身に感じている今日この頃です。特に英語と中国語に関しては、ともに世界で10億人以上の話者がいることもあり、ビジネスで使われる機会も多くあります。必要性を痛感している読者も多いのではないでしょうか。
筆者の息子が通う学校では子どもも親も3カ国語以上話すトリリンガルが珍しくなく、外国語を話す人たちとのコミュニケーションスキルが問われる状況で大変困っています。翻訳機の「ポケトーク」を取り出すのはちょっと気が引けるし……(笑)。
「万能通訳」としての生成AI
さて、ここからAI(人工知能)の話に入ります。生成AIが最も活躍できるのは翻訳ではないかと筆者は考えています。
生成AIは、膨大なテキスト学習によって言葉を「確率論」に基づいて選び、文章を生成しています。計算式で「正解」を出すわけではありません。
この学習プロセスは、外国語の取得に非常によく似ています。
「rock」は「岩」や「ロック音楽」を意味する名詞ですが、「何かを揺さぶる」という意味の動詞でもあり、「感動する」「素晴らしい」といったスラングとしても使われます。海外ドラマなどでは”That really rocked my world”(それはとても感動的だった)といった感じで使われています。
このように単語の意味は文脈によって変化するので、前後の文章や置かれているシチュエーションによってどの意味をあてはめて理解するかを判断する必要があります。ここが難しいところですが、「確率論」に基づいて次に続く単語や文章をつなげていく大規模言語モデル(LLM)にとてもフィットするところでもあります。生成AIは使い方によってはとても精度が高い翻訳ツールになるのです。
生成AIを翻訳ツールとして使うコツ
一昔前も、ITを利用した自動翻訳は「Machine Translation」(機械翻訳)として存在していました。しかし、何分、精度がイマイチ……いや、「イマサン」くらいで、機械翻訳であることを明示して読み手に「言い訳」しなければ危険で使えないというレベルでした。機械翻訳も辞書をカスタマイズして充実させれば「それなり」になりますが、現在の生成AIの能力には全く及びません。
それでは、生成AIを翻訳ツールとして使う場合のコツを紹介しましょう。筆者は以下のような用途で使っています。
- 電子メールや書類の文章、海外ドラマの中のフレーズなどで分からない語彙(ごい)の確認(確認方法は後ほど説明します)
- 契約書や取扱説明書、報告書、提案書など大分量の文書の翻訳の下準備
- 英語学習のための単語帳作成
1は、分からない単語やフレーズがあった場合に筆者は「ChatGPT」を使って調べています。AI翻訳ツールの「Google翻訳」でも調べられますが、重要なのは前後関係やシチュエーションを理解することです。プロンプトに次のような「前置き」を挿入することで、より精度の高い結果が得られます。
例えば、子どもが通う学校のカリキュラムにある”Humanities”がどんな授業なのかイメージできないとします。
Google翻訳で調べると、「人文科学」という回答だけ返ってきて、ますます「?」となってしまいます。そこで、ChatGPTに前置きを挿入したプロンプトを入れて、「説明」してもらいます。
単なる言葉の変換だけでなく、その詳細な内容をイメージできるようになりました。これはありがたい!
次に、2にはAI翻訳ツールの「DeepL」を使ってます。ChatGPTを使う手もありますが、ChatGPTは基本的に、翻訳したい原文をテキスト形式にして入力欄にペーストする必要があります。あまり長い文章を一気に翻訳することはできないため、大分量の文書に向いていません。その点、DeepLは「Microsoft Word」(.doc)、「Microsoft PowerPoint」(.ppt)、PDFなどのファイルをそのまま読み込んで、レイアウトを変えずに翻訳してくれるので重宝しています。もちろん、DeepLはテキスト変換も可能ですが、その場合はプロンプトを自由に書けるChatGPTの方が良いと考えています。
例えば、英語と中国語で書かれている保険の説明書(PDF)がある場合、DeepLはそのまま日本語に翻訳できます。絵やグラフなどと絡めて説明されている場合、翻訳後のテキストの量が原文よりも多くなるためレイアウトが崩れることはよくあります。それでも、テキストだけ抜き出して翻訳させるのに比べてはるかに理解しやすいように筆者は感じています。
筆者は既に日本語版が存在している会社説明やサービス説明などは、レイアウトを維持したままDeepLでざっくり翻訳をかけ、その後、レイアウトが崩れないように文章をシンプルにしたり誤訳を修正したりしています。それでもフルスクラッチで翻訳するのと比較すれば、約10倍のスピードで仕上がります。
最後に、3にはChatGPTを使っています。
以下のように、プロンプトに分野やレベル感などの補助情報を入力し、必要なボキャブラリーのリストを作るやり方です。
もちろん単語だけでなく、フレーズや例文といった形態を指定して「熟語帳」や「例文帳」を作成することも可能ですね。これは便利!
「通訳者、翻訳者は生き残れるか」問題の答えは?
今回は生成AIのいろいろな使い方をご紹介しました。
最後に「翻訳という仕事が将来残るのか」という疑問にお答えしましょう。筆者の答えは「No」です。
今後、AI翻訳の精度がさらに上がる中で、生成AIが得意とし、人間にとって骨の折れる翻訳という作業は、まさにAIによって生産性が「爆上がり」する領域だからです。もちろん他の仕事同様、翻訳もAIによってディスラプト(揺さぶる)されてもトップの優秀なプロフェッショナルはAI翻訳とは違う面で生き残れるでしょう。文章の味わいといった「味付け」や、日本と他国との商習慣や文化の差、テーマに沿った専門知識などを踏まえて補足するなどの付加価値を付けられるからです。
しかし、標準レベルの仕事ぶりだった翻訳業の人々が生活費を稼ぐのは難しくなると思います。
前回も言及しましたが、読者の皆さんには「現在の仕事が残るかどうか」にとらわれるのではなく、AIを副操縦士(copilot)として使いこなす先にどのような仕事が生みだせるのかといった「将来」にフォーカスしていただきたいと考えています。
著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)
知的生産研究家、起業家、上場企業の経営者。現在、DX支援クラウドを提供する株式会社ショーケース(東証3909)とリユースモバイル事業を運営する日本テレホン株式会社(東証9425)、2社の上場企業の経営者。
企業経営と並行し、新規ビジネス開発、働く人の生産性向上をライフワークとした執筆、講演活動などを行う。
自著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』(ソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)、『会社では教えてもらえない仕事がデキる人の資料作成のキホン』(すばる舎刊)がある。
著書一覧:https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%B0%B8%E7%94%B0%E8%B1%8A%E5%BF%97
連絡先: nagata@showcase-tv.com
Webサイト: www.showcase-tv.com、https://www.n-tel.co.jp
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