経営層が誤解している「クラウド障害」の真実 ガートナーが提唱する復旧策
クラウド障害によるビジネスへの影響が拡大する中、適切な復旧策を講じるためにはまず経営層の誤解を解くところから始める必要があるだろう。
ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2023年9月27日、クラウドへのシフトが進むIT基盤のレジリエンスに関する見解を発表した。クラウドの停止によってビジネスにもたらす影響を調査している。
経営層が誤解している「クラウド障害」の真実
ガートナーが2023年4月に、ITインフラストラクチャ領域の予算やテクノロジー選択に関する決定権を持つ役職を対象に実施した調査によると、「ITの停止やデータ損失などによるビジネスのリスクを把握している」と回答した割合は22.3%だった。
ガートナーによると、「クラウドのデータセンターは堅牢(けんろう)でサービスが停止することはない」と考えている経営層は多く存在するという。こうした企業でクラウド障害が起こり社内のITサービスが停止すると、IT部門は対応に追われ、結果的に解決策への着手が遅れるなど業務にも悪影響を及ぼす。
この状況を打開するには経営層や組織全体に正しい知識を周知する必要がある。一つは「クラウドはしばしば止まる」が、多くの場合その障害は小規模・局所的・短時間であり、ケースによってはその障害を回避することも可能という点だ。もう一つは、クラウド障害の多くは「ソフトウェアの不具合によるもの」であり、災害やデータセンターの壊滅につながるような障害ではないということだ。
ガートナーの山本琢磨氏(ディレクターアナリスト)は「もし自社の経営層がクラウドに対して『絶対止まらない』といった過度な期待を持っている場合、常識的なクラウドの実態を把握させる必要がある。自社ビジネスのクラウドへの依存の程度、クラウドがどの程度止まっているかなどのクラウドの実態とビジネスとの関連、影響などの情報を提供することが重要になる」と語る。
クラウドの障害規模の多くは小規模で局地的かつ短期的だ。高頻度に発生する小規模かつ局所的な障害に焦点を合わせた施策として、複数の障害ドメインを利用したサービスの「冗長化」や複数のアベイラビリティゾーンを利用した「高可用性」、リージョンをまたいだサービスの冗長化などによる継続的な可用性の実現を検討すべきだ。
コストとのバランスを意識した復旧策を確立せよ
ガートナーの調査によると、国内企業におけるIT復旧策の考え方は災害復旧対策(DR)を前提としたものが主流であることが分かっている。しかしクラウドの障害は、DRサイトに切り替えるような施策を実行する必要のないものが多い。そのためクラウド障害への対策はDRではなく、まず頻度の高い障害への対策を講じる必要があるという。
復旧策についてはITインフラや運用を担うチームだけで決めるのではなく、ビジネスニーズを把握するためにビジネス部門やアプリケーション部門と協働して対策を立案する必要がある。山本氏は「クラウドを利用しているITサービスのうち、クラウドサービスの復旧を待っても問題のないサービスを積極的に把握しておくことが重要だ。ビジネスニーズとコストを天びんにかけて、必要なコスト以外は極力削減すべきだ」と話す。
同氏は一方で「大規模震災下でも最低限のビジネスを継続できるかどうかの観点でDR施策を引き続き検討することも重要だ。『なくなってもよい』または『なくなっても再構成できる』といったデータやシステムについては、DRサイトの考えを捨ててもいいが、そうでない場合は、DRサイトへの切り替えはともかく、データやシステムのバックアップデータをDRサイトに転送しておく必要がある。企業におけるIT基盤の復旧対策に当たっては最低限のDRは考えつつ、同時にクラウドの小さな障害に耐えるレジリエンスに改善していくことが重要だ」と語った。
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