「サブスク疲れ」を乗り越えるための新製品 Zuoraが「Zephr」を国内発売
サブスクリプション管理プラットフォーム「Zuora」に新たなケイパビリティーが加わった。新製品「Zephr」により、サブスクリプションビジネスを営む企業は、より顧客のニーズに即したオファーの提供を簡単操作で実現可能になる。
サブスクリプションビジネス管理のための製品群をクラウドで提供するZuoraは2023年11月15日、新製品「Zephr(ゼファー)」の日本での販売を開始したと発表した。
Zephrは2022年にZuoraが買収した同名企業が提供していた製品で、Web経由の収益向上を実現する。Zephrを使うことで、Web経由のさまざまな施策を展開するに当たり、仮説に基づいた検証と評価、改善のプロセスを最短で実現し、個々の顧客に最適なサブスクリプションプランを提供できるようになる。世界の大手メディア企業をはじめ、SaaSなど、サブスクリプション型のビジネスで広く利用されている。
「サブスク疲れ」のわなに陥らないために
ビジネスイベント 「Subscribed Connect Tokyo」のために来日したZuora創業者兼CEOのティエン・ツォ氏は記者向けの製品発表の場で「15年で急拡大したサブスクリプションサービスの市場は成熟した。今日目の当たりにしているのは、市場淘汰(とうた)の真っ只中にいるということだ。例えばストリーミングサービス一つとっても、音楽配信も動画配信も数多くのサービスがある。ユーザー側は圧倒されるばかりで“サブスク疲れ”という言葉も生まれている」と述べ、厳しい競争環境におけるリテンション(顧客維持)の一層の重要性を強調した。
Zuoraの社内シンクタンクであるSubscribed Instituteが2023年3月に発表したレポート「The Subscription Economy Index」によれば、サブスクリプション型のビジネスモデルを展開する企業のARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)の70〜80%は既存加入者が生み出している。顧客と良好な関係を継続し、安定的な収益を得ることはこれまで同様に重要だが、今後は顧客との関係を軸に新たな成長機会をうかがうことが企業の戦略にとって優先的なテーマになってくる。つまり、既存顧客の解約を防ぐだけでなく、より高い価値を提供してCLV(顧客生涯価値)を最大化していく必要があるということだ。
解約防止とCLV向上の鍵は「ダイナミックオファー」
ツォ氏が掲げるキーワードは「アンバンドリング」と「リバンドリング」。これまでセット売りされていた製品・サービスを構成する要素を一度分解し、ユーザーのニーズに沿った新たな組み合わせで提供することが、顧客との関係を長期的に成長させるために有効なアプローチとなる。そこで鍵になるのがZephrだ。
「Zuora製品はプライシング見積もりから請求、回収、収益認識まで、サブスクリプションの収益化のプロセス全てをカバーしている。今回Zephrが加わったことで、新たにWebフロントの入り口が追加された」とツォ氏は語る。
Webサイトの訪問者が置かれている状況や訪問の目的は多岐にわたる。初めて訪問する人もいれば何度も来ている人もいるし、関心のあるコンテンツも人それぞれだ。Zephrは訪問者のWeb上での行動履歴や入力されたデータを参照することで、個々の顧客に応じて適切なオファー(特典)を適切なタイミングで動的に提示することを可能にする。
例えばWebページで訪問者に対して何らかのサービスへの登録を促すとしよう。訪問数はそれなりにあってもコンバージョン率が低い場合、頻繁にページを訪れるなど関心の高そうな人に対しては特別なオファーを提示することが有効になるかもしれない。あるいは何本か記事を読んでもらった後でフォローアップしたいタイミングで電子メールアドレスや電話番号の登録を促すといった使い方もできる。
Zuora製品群にZephrが加わったことで実現する提供価値は主に以下の3つだ。
- 顧客(サブスクライバー)理解:Zuoraに蓄積されたファーストパーティーデータ(加入者のアクティブな料金プランなど)とサードパーティーデータを通じた深い顧客理解。
- ダイナミックオファーの作成:期間限定のバンドルや割引で無料版顧客を有料版に誘導する。あるいは適切なアドオンオファーで有料顧客の解約を防ぐ。
- ローコード:ローコードルールビルダーと50以上の事前定義されたデシジョンポイントにより、実験と学習を迅速に行う。
ジャーニー(条件に従ってどのページに誘導するか)を構築するためのルールビルダーは、マウス操作のみで使用可能。通常このような仕組みを用意するには開発が発生するが、Zephrであれば基本的にコーディングなしで実現できるので、IT部門に頼らずアイデアが浮かんだらすぐに施策を実行して検証し、検証結果を見てコンバージョンの改善につなげられる。
日本では毎日新聞社が導入
Zephrの用途は多岐にわたるが、特にメディア企業での採用例が多く、日本でも2社のメディア企業がZephrの導入を決めている。そのうちの一つが有料購読サービス「毎日新聞デジタル」を提供する毎日新聞社だ。同社デジタル推進本部長CDOの高添博之氏はZephrの導入理由について、「読者と直接つながれるようになったが、果たしてその読者の要望に応えられているか、サブスクリプションのサービスがうまく届いているかというと、これまでのやり方ではなかなか限界がある。Zephrを導入することによってサービスを細分化し、それぞれのお客さまに対して適切なオファーが出せるようにしたいと考えた」と語る。
現在、「毎日新聞デジタル」には「スタンダード」と「プレミアム」の2つのプランが用意されている。同社は今後、ダイナミックオファーも組み合わせながら、サブスクビジネスの一層の成長を図っていく構えだ。
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