大企業における「生成AI利用の課題」とは? 野村総合研究所の調査で判明
野村総合研究所(NRI)の調査によると、国内大企業における生成AIの利用意向は高いが、課題もある。生成AIを利用する上で「壁」となるのは何だろうか。
野村総合研究所(以下、NRI)は2023年11月28日、大手企業を対象に実施した「ユーザー企業のIT活用実態調査 2023年」の結果を発表した。
大手企業における「生成AI利用の課題」とは?
同調査は、国内企業におけるIT活用の実態を把握する目的で大手企業のCIO(最高情報責任者)またはそれに準じる役職者を対象に2023年9月に実施した。機械製造や素材・他製造、建設、流通、金融、運輸・通信・インフラなど幅広い業種にわたる459社から有効回答を得ている。NRIは2003年から同調査を毎年実施しており、今回は21回目となる。
同調査ではIT投資やデジタル化への取り組みなど、従来から継続している質問項目の他、今回から「生成AI(人工知能)」に関する質問項目が加わった。
2023年度に自社のIT投資(支出ベースの投資額)が「前年度に比べて増加した」と回答した企業は60.9%で、2022年度から8.0ポイント増加した(図1)。これは過去20年の調査結果で最も高く、「大手企業におけるIT投資の重要性がこれまでにないレベルで高まっている」とNRIは指摘する。
2024年度のIT投資については、2023年度よりも「増加する」と回答した企業が51.5%とほぼ半数に上り、2022年度(49.0%)と同程度の結果となった。一方、「減少する」と回答した企業は10.5%だった。
生成AIを「導入済み」「検討中」は8割超え
デジタル技術の導入状況については、「RPA」(Robotic Process Automation)の導入率が最も高く、69.9%に達した(図2)。「定型業務を効率化する上で多くの企業に普及したツールになった」とNRIは説明する。「ノーコード/ローコード開発ツール」の導入率は、前回の26.7%から38.8%に伸びた。「プログラム開発を効率化したいというニーズがある」とNRIは分析している。
近年注目が集まる生成AIの導入率は24.2%で、「生成AI以外のAI・機械学習(ML)」の導入率は28.7%だった。生成AIについては「導入を検討中」との回答が30.8%と多く、「今後検討したい」との回答が26.0%に上ることから、「今後の導入進展が期待される」とNRIはコメントした。
生成AI活用の課題はリテラシースキル向上とリスク対処
生成AIの活用に関わる課題については、「リテラシーやスキルが不足している」という回答が64.6%で最も多く、「リスクを把握し管理することが難しい」(61.4%)が続いた(図3)。
従業員のリテラシーやスキルの不足は、これまでのAI活用でも課題とされてきた。一方、リスクの把握や管理については、生成AIが最近注目されるようになった技術であることに加え、「プロンプトインジェクション」と呼ばれる新しいサイバー攻撃手法の登場や、生成AIが偽情報を生成する可能性、著作権との関連など、「これまでにない観点でのリスク対処が必要となっている。これらが課題として認識されてきた」とNRIは回答の背景を推測する。
生成AIの適用領域を社内における一般的なオフィスワークからさまざまな業務領域へと広げる上で、リスクへの対処は重要な課題だとNRIは指摘する。
デジタル化を担う人材の確保 「スキルの定義・評価や処遇」が課題
2022年実施の調査では、デジタル化の推進において各社が直面している課題について「デジタル化を担う人材の不足」を挙げた企業が最も多く、80.5%に達した。
今回の調査でIT・デジタル化人材の採用・獲得においてどのような課題があるかをたずねた結果、「報酬や役職の面で、魅力的な処遇を提示できない」が59.4%で最も多く、「自社が確保したい人材像やスキル、レベルを定義できていない」(44.7%)が続いた(図4)。
IT・デジタル化人材の育成における課題については「スキルを人材の評価に反映する仕組みがない」(51.8%)という回答が最も多く、「スキル向上・獲得に即したメリット(処遇向上など)を提示できない」(50.5%)が続いた(図5)。
これらを踏まえると、各社でデジタル化を推進するためには、「まず必要な人材像を定義し、従来の処遇や人事制度の枠組みを見直し、必要な人材の確保・育成に当たることが求められている」とNRIは分析する。
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