IT投資額が最も多いのは製造業 2位は? 調査で判明
富士キメラ総研によると、国内のIT/DX関連投資は、深刻化する人手不足の解決や、生成AIの活用、DXの広がりなどから、各業種で拡大が予想されるという。
富士キメラ総研が国内産業9業種を対象に2024年4〜8月に実施した調査によると、IT投資額は全業種で増加傾向だという。
IT投資額が多い業界と、投資の内訳は?
背景には、コロナ禍で先送りになっていた投資の再開や半導体関連での大規模投資、インバウンドを含めた人流の回復などによる設備投資の拡大がある。
業界別に見ると、投資額が最も大きい業界は製造業で、この背景には製造DXの進展などがある。2番目に大きい業界は何か。また、投資の内訳とは。
まず、従来型IT投資の領域では、既存システムのダウンサイジングやクラウド化もみられるが、人手不足への対応やコスト削減を目的とした効率化が進められることで安定した推移が続くと同社は分析する。また、デジタルイノベーションの実現や人手不足解消などを目的とするDX関連の投資が活発になり、2028年度のIT投資額は26兆4447億円になると予測する。
業種別に見ると、投資額のトップは製造業で、金融業が続く。製造業では、製造DXの推進やサプライチェーン関連のIT投資が増加する見込みだ。今後は生成AI関連での投資も増加するとしている。
分野別では、業務システム系はDXの足固めとしての需要が堅調だ。営業・マーケティング系は顧客接点の多様化への対応や営業の量・質向上を目的に投資が進み、特に小売・卸売業や金融業における高成長が予想されている。
業務のデジタル化に伴い、サイバー攻撃が事業に与える影響度も高まるため、セキュリティ領域への投資も伸びるとしている。
物流、建設業界の「2024年問題」対策の影響は?
企業規模別では、大手企業はDX推進や業務効率化などにより伸びている。特に物流・運輸業は「物流の2024年問題」への対策、製造業はスマートファクトリー実現に向けた投資が進展している。中堅・中小企業はITリテラシーの向上に加え、大手よりも事業への影響度が高い人手不足対策を目的としたIT投資が増加傾向だと富士キメラ総研は分析する。
国内のIT投資額のうちDXに関連するものは、2023年度に4兆1316億円となった。業種を問わずDX関連投資が増加しており、大手企業だけでなく、中堅・中小企業にもDX推進の裾野が広がっているという。今後もデータ活用による経営管理の高度化や新規ビジネスの創出、現場課題の解決に向けた投資が増えていく。2028年度には6兆8730億円が予測され、IT投資のうち26.0%がDX関連になるというのが同社の見立てだ。
■DX関連投資額の予測
| 2023年度 | 2028年度予測 | 2023年度比 | |
|---|---|---|---|
| DX関連 | 4兆1316億円 | 6兆8730億円 | 166.4% |
| IT投資額に占めるDX比率 | 18.9% | 26.0% | ― |
業種別の傾向は?
金融業では、コロナ禍を経て業務のデジタル化が進み、業務の自動化や効率化、脱店舗化に向けたIT投資が増えている。勘定系システムなどメインフレーム基盤を提供するベンダーの事業撤退や料金値上げなど、ベンダーの動きも活発化している。これに伴い、ユーザー企業は他のメインフレームベンダーへの移行やクラウドの検討を進め、メインフレームのモダナイズ化や、将来的には基幹システムのSaaS(Software as a Service)化が進む。
DX関連では、デジタルバンキングなど金融サービスの多角化への対応、ブロックチェーンなどの技術を活用した金融取引に向けた投資が増えると富士キメラ総研は予測する。
■金融業におけるIT投資額の予測
| 2023年度 | 2028年度予測 | 2023年度比 | |
|---|---|---|---|
| IT投資額 | 3兆7500億円 | 4兆4940億円 | 119.8% |
| うちDX関連 | 7200億円 | 1兆1680億円 | 162.2% |
物流・運輸業業では、他業種と比べてIT投資が遅れていたものの、「2024年問題」に伴う人手不足や、ドライバーの高齢化などが深刻化している。車両運行管理システムや配車計画支援システムといった業務システム系ソリューション、物流企業と荷主企業間の情報連携を目的としたコミュニケーションツールの導入が増加し、投資額が増えている。
また、走行データの収集・分析による運転効率の向上やラストワンマイルDXを中心としたDX関連の投資が増加している。収集データを基にAIによる配送計画立案の自動化や高度化、バース予約の効率化を図る企業が増えている。将来的には、小売業における需要予測システムとのデータ連携や、共同配送の強化に向けた物流プラットフォームの活用が拡大することで事業者間、サプライチェーン全体での業務効率化が図られると富士キメラ総研は予測する。
■物流/運輸業におけるIT投資額の予測
| 2023年度 | 2028年度予測 | 2023年度比 | |
|---|---|---|---|
| IT投資額 | 8867億円 | 1兆847億円 | 122.3% |
| うちDX関連 | 3000億円 | 4650億円 | 155.0% |
建設業では、デジタル化の進展が遅れていたが、公共事業における建設プロジェクト全体の業務効率化を図るBIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)の原則適用を国土交通省が指針として打ち出すなど、デジタル化推進の動きがみられる。また、「建設業の2024年問題」への対応や建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及などの施策が進む。
現状ではデジタル化は大企業を中心に進んでいるが、中長期的には中堅・中小企業を含めた業界全体でIT投資が増えていく。現場作業者を効率的に配置するための遠隔操縦や省人化を目的とした自動操縦など、建機をはじめとした建設現場のデジタル化、スマート測量などDX関連の投資が増加すると富士キメラ総研はみている。
■建設業におけるIT投資額の予測
| 2023年度 | 2028年度予測 | 2023年度比 | |
|---|---|---|---|
| IT投資額 | 5740億円 | 6933億円 | 120.8% |
| うちDX関連 | 600億円 | 1250億円 | 2.1倍 |
不動産業では、大手企業ではIT投資が進むものの、中小企業では紙ベースでの業務も多くみられた。コロナ禍を契機にデジタル化が進展し、入居申し込みや契約の電子化など、賃貸業務を中心に電子化が進みつつある。中小企業では汎用業務におけるSaaSの利用が進み、大手企業でも法制度への対応やシステム刷新を契機にSaaSへの移行がみられる。
デジタルでの業務完結を目指し、DX関連を含めてIT投資の増加が予想され、DX関連では、大手デベロッパーによる物件の付加価値向上に向けたIoT(モノのインターネット)の活用やスマートシティーへの投資、アプリケーションを通じた新規ビジネスの創出なども期待されると富士キメラ総研は分析する。
■不動産業におけるIT投資額の予測
| 2023年度 | 2028年度予測 | 2023年度比 | |
|---|---|---|---|
| IT投資額 | 2842億円 | 3687億円 | 129.7% |
| うちDX関連 | 530億円 | 900億円 | 169.8% |
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