2025年は「技術的負債」が深刻化 事態を複雑にする“ある要因” :CFO Dive
目先の利益を追求したツケが膨らみ、企業経営を追い込む「技術的負債」。ある調査によると、この技術的負債を最も多く生んでいるのは、過半数の企業が投資額を増やしている「あの技術」だという。それは何か。
調査会社のForrester Researchによると、先進技術の進展によってITシステムを取り巻く環境が複雑化する中、2025年以降に多くの企業が「技術的負債の“波”」に飲み込まれるという。
2025年以降、技術的負債が深刻化する理由は?
技術的負債とは、技術のアップグレードやシステムのモダナイゼーションを先送りすることで発生するコストを指す。具体的には、古い技術やシステムを使い続けることでセキュリティリスクが増大したり、拡張性が損なわれたり、運用に困難が生じたりすることで企業が被る損失のことだ。古い技術を利用し続けることによる機会損失も含まれる。
同社が発表した最新の報告書では、技術分野における意思決定者の50%以上が2025年に技術的負債の深刻度が「中程度、または高いレベル」になると予測している。この割合は2026年には75%に達する見込みだ(注1)。なぜ、技術的負債は今後、深刻化するのか。その原因となる「ある技術」とは。
Forrester Researchのカルロス・カサノバ氏(主席アナリスト)は、技術的負債についてインタビューで次のように述べた。
「ITインフラには膨大な技術的負債が存在する。技術の成長や企業の分散化、AIの登場などの状況が重なり、この問題を飛躍的に悪化させる『完璧な嵐』が吹き荒れている状況だ」
企業がAIの導入を急ぎ、競合他社に後れを取らないようにするために乗り越えなければならない課題が増えていることを、同調査は浮き彫りにしている。
コンサルティング会社のProtivitiは2023年に発行した報告書で、「CFO(最高財務責任者)は企業に蓄積された技術的負債に対処するための指揮を執るべきだ」と述べた。同報告書によると、企業はIT予算のうち平均30%を技術的負債の管理に費やし、IT人材の5分の1をその対応に充てているという(注2)。
Accentureが2024年10月発表した報告書によると、生成AIを含むAIツールは現在、企業向けアプリケーションと並んで技術的負債の最大の要因となっている(注3)。同報告書では、技術的負債のコストは米国だけでも年間2兆4100億ドルに上る。これは情報技術およびソフトウェアの品質改善を目指す標準化団体CISQ(Consortium for Information & Software Quality)が2022年に発表したデータを引用したものだ。
しかし、こうした状況にもかかわらず、2025年に向けて生成AIの予算を拡大する企業は52%に上る。Accentureは「この傾向はさらに進む」と推測している。
「生成AIは典型的なジレンマに陥っている。一方では生成AIは新たな技術的負債を生み出しているが、適切に使用すれば技術的負債を解消し、技術的負債を最小限に抑えられる」(Accenture)
コンサルティング会社のMcKinsey & Companyに所属するアナリストは、「技術的負債は緊急で対応した変更が直されずにそのまま放置されていたり、古くなったソリューションを更新していなかったり、長期的な利益よりも短期的な技術提供を優先したり、ビジネスの優先順位に合わせて一時的なソリューションを提供したりといった、さまざまな慣行によって発生する」と、2023年に公開された記事で述べた(注4)。
「こうした決断の多くは、その時点では理にかなっている。しかし、複雑さが積み重なるにつれて将来のプロジェクトはより遂行が困難になる。この悪循環は機会損失やリソースの浪費といった形でビジネスに莫大(ばくだい)なコストをもたらす」(McKinsey & Company)
Accentureの報告書によると、AIが問題をさらに複雑にしている。特に、一部の企業のプラットフォームは人間とのやり取りを前提に設計されており、現在では多くの生成AIの実装には適していないという課題が挙げられている。
(注1)Predictions 2025: Technology & Security(Forrester Research)
(注2)Technical Debt and Innovation the CFO’s Perspective(Protiviti)
(注3)Build your tech and balance your debt(Accenture)
(注4)Breaking technical debt’s vicious cycle to modernize your business(McKinsey & Company)
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