SIerとユーザー企業はなぜ「相互不信」に陥るのか? 業界歴40年のPMが考察:SIerはどこから来て、どこへ行くのか(2/2 ページ)
企業経営にITが不可欠な存在となった今、ユーザー企業にとってSIerの存在はかつてないほど重要性を増している。しかし、ユーザー企業とSIerは互いに不信感を抱いているというのがSIer側としてシステム開発に携わってきた筆者の見立てだ。相互不信の背景にあるものとは。
SIerとユーザー企業、相互不信のなぜ
こうして老朽化が進むITシステムでは、設計開発よりも影響調査やテストにかかるコストや時間の方が大きくなる。
これが冒頭で触れた、ユーザー企業がSIerに持つ不信感の背景だ。ユーザー企業は「ITシステムは『高く』て『遅い』。なぜ小さな機能の追加にこれほどの時間とコストがかかるのか」と思いがちだ。これがSIerに対する不信感の最大の理由になっていると筆者は考えている。
ただし、SIerから見ると、コストを過大に見積もっているわけではない。むしろ深刻なトラブルを発生させないために最大限努力した結果の金額であるケースが多い。さらに言えば、SIerは「ITシステムへの理解が不十分であるために、ユーザー企業が無茶な要求を押し付けてきた」と感じていることも多い。この認識のギャップが相互不信の根っこにあると筆者は見ている。
いずれにしても、両者のコミュニケーションが十分に取れていないのは問題だ。特に、ユーザー企業の経営サイドが技術的負債が積み上がって存在そのものが「負債化」しているITシステムの実態を理解していない。
経営層がITシステムに関して抱いている不満がIT部門にぶつけられ、その不満がIT部門を通じてSIerに向かうことになる。
よくあるケースとして、IT部門がビジネスを改革したい経営サイドに対する抵抗勢力だとみなされるというものがある。経営サイドが外部から新しいCIO(最高情報責任者)を迎え、経営とITの亀裂が深刻化する場合もある。
いずれにしても、ITシステムの現状を経営サイドに正しく説明することがまずは重要だろう。
次回は、巨大なシステム障害の原因ともなり得るモノリスシステムが開発されてきた事情と、ソフトウェア開発の「進化」に触れる。
著者紹介:室脇慶彦(SCSK顧問)
むろわき よしひこ:大阪大学基礎工学部卒。野村コンピュータシステム(現野村総合研究所)執行役員金融システム事業本部副本部長等を経て常務執行役員品質・生産革新本部長、理事。独立行政法人 情報処理推進機構 参与。2019年より現職。専門はITプロジェクトマネジメント、IT生産技術、年金制度など。総務省・経産省・内閣府の各種委員等、情報サービス産業協会理事等歴任。著書に『SIer企業の進む道』(日経BP)、『プロフェッショナルPMの神髄』(日経BP)など。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
日本通運はなぜアクセンチュアを訴えたのか? IT部門が「124億円の訴訟」から学ぶべきこと
基幹システムの開発をめぐって、日本通運がアクセンチュアを訴えた件から、ユーザー企業は何を学ぶべきか。SIer側からシステム開発に携わってきた筆者が「日本独特の商習慣が招いたトラブル」を考察する。
アクセンチュアに責任を問えるのか? 「124億円の訴訟」に学ぶ、システム開発失敗の原因
「124億円の訴訟」からユーザー企業のIT部門は何を学ぶべきか。SIer側からシステム開発に長年携わってきた筆者が、本件における「開発失敗の真の原因」と「開発失敗がユーザー企業に与える、コスト以上のダメージ」を考察する。
なぜSIerは「DXの本丸」に切り込もうとしないのか?
SIビジネスには長年蓄積されてきた構造的な歪みが存在している。システム開発にまつわるトラブルもこの歪みに端を発するものが多い。SIerとしてシステム開発に携わってきた筆者が、「歪みを解消するためにSIerがすべきこと」を考察する。
SIerはどう変わるべき? 「下剋上」も夢じゃない、ユーザー企業のために獲得すべき技術とは
ユーザー企業のDXを支援するSIerの中には、実は自社のDXはさほど進んでいない会社もある。SIer勤務歴の長い筆者が考える、自社とユーザー企業のDXを実現するためにSIerが獲得すべき技術とは。