差別化が難しいERPのAI機能 NetSuiteの「Anything-as-a-Service」は有効か
Oracleが提供するERP、NetSuiteのAnything-as-a-Service Editionは、成長中の中堅・中小企業にとって有益な選択肢となるか。
Oracle NetSuiteのエヴァン・ゴールドバーグ氏(創設者兼エグゼクティブ・バイスプレジデント)は、2025年2月6日(現地時間)に開催したイベント「SuiteConnect 2025」で「新しいAI機能は、ユーザーがより効率的かつ生産的にタスクを実行できるように設計されている」と述べた。サービスベースのビジネスモデルを持つ顧客の管理を支援することを目的としている。
ゴールドバーグ氏は「ビジネスアプリケーションにおいてAI機能を効果的に活用する鍵は、アプリケーションに後付けするのではなく、製品群全体に完全に組み込むことだ」とも述べた。
NetSuiteに追加されたAI機能
新たに追加されたAI機能には、自然言語によるチャットを通じて販売者と購入者が製品の見積もりを設定できる「NetSuite CPQ AI Assistant」や、自然言語によるサポートガイダンスを提供する「Using NetSuite Expert in SuiteAnswers」、カスタムテキストフィールドでのデータ入力をより迅速で正確に実施できる「Text Enhance」、NetSuiteで使用される大規模言語モデル(LLM)のプロンプトを一元管理し、AIの統合やカスタマイズを簡素化する「Prompt Management API」が含まれている。
Oracle NetSuiteは、SuiteConnectにおいて、「NetSuite ERP」向けの「Anything-as-a-Service(XaaS) Edition」も発表した。ゴールドバーグ氏によると、このXaaS Editionは成長中の中堅・中小企業を対象としており、製品およびサービスのマーケティングや販売を含むハイブリッドなビジネスモデルを採用する企業向けに設計されている。また、さまざまなビジネスプロセスを統合するための機能も備えているようだ。
ゴールドバーグ氏によると、XaaS ERPのアプローチは、卸売業者や小売業者、流通業者、製造業者、インターネットサービスプロバイダーといった従来型のビジネスモデルにとらわれない、新世代の起業家を対象としている。
「ビジネスモデルの境界が曖昧になることがNetSuiteに有利に働いた。新しいタイプの企業が存在し、私たちがすでに支援していることを明確に打ち出せるようになった。そして、その企業のビジネスがどのように進化しているのかを理解した上で、最適なツールを最初からパッケージ化して提供できるようになった」(ゴールドバーグ氏)
新たに追加されたAI機能とXaaS Editionは、NetSuite ERPに関する最新のアップデートにおいて追加料金なしで利用可能となっている。
NetSuiteのクラウド型ERPプラットフォームは、主に中堅・中小企業を対象としており、相互に連携するビジネスアプリケーションの製品群で構成されている。これには、ERPや財務会計、CRM、人材管理、フィールドサービス管理、プロフェッショナルサービスの自動化、その他のビジネスアプリケーションが含まれる。
このプラットフォームは年に2回アップデートされ、AIを活用した新機能がますます強化されている。
AIの価値を予測
SuiteConnectの参加者であり、再生可能エネルギーに関するビジネスを営むSolunaのジェシカ・トーマス氏(最高会計責任者)は「AIが自社の価値向上にどのように貢献できるのかを知ることに強い関心を持っている」と述べた。
ニューヨーク州オールバニーに本社を置くSolunaは、米国内のさまざまな地域でデータセンターを建設、運営しており、それらは太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー施設と併設されている。トーマス氏によると、同社のデータセンターは暗号資産のマイニングなどの用途にも活用されているという。
トーマス氏によると、Solunaは2024年1月にNetSuiteのERPを本稼働させ、従来のERPや「Microsoft Excel」ベースの多数の業務プロセスを置き換えたという。同社は、調達から支払い、受注から入金といった財務プロセスにおいて、NetSuiteの標準機能を活用している。同氏は、近い将来、AIがNetSuiteの機能に不可欠な要素となることを期待している。
「現在もAIを活用しているが、その可能性を十分に引き出しているわけではない。私たちは自社をテクノロジー企業と位置付けており、当社のデータセンターの未来は、デジタル暗号資産の分野ではなく、AIの分野にあると考えている」(トーマス氏)
トーマス氏は「NetSuiteが提供するAI機能を詳しく調査し、それが当社にどのようなメリットをもたらすのかを探りたい」と述べた。特に、顧客との契約条件の順守などにAIを活用できる可能性に関心を持っているという。
「ERPに契約書をアップロードし、『全てのコンプライアンス要件を要約し、債務スケジュールを作成し、財務制限条項を計算し、コンプライアンスを順守しているかを示すダッシュボードを作成してほしい』と指示できたら、どれほど素晴らしいだろうか。そうした作業に時間を費やすのではなく、財務制限条項が順守されているかどうかを確認し、必要な対応を取ることに集中したいと考えている」(トーマス氏)
成長中の中堅・中小企業に役立つAnything-as-a-Service
コンサルティングサービスを提供するTechVentiveのブライアン・ソマー氏(創設者兼プレジデント)によると、新しいAI機能は顧客にとって便利だが、ERPの分野における競合他社が自社のプラットフォームに追加した機能と比べて特に目立つものではないという。
「NetSuiteによるAIを活用した取り組みの一部は、他のベンダーがすでに実施しているものと同じだ。全てのベンダーがAIを活用した取り組みの差別化に苦戦している」(サマー氏)
サマー氏によると、XaaS EditionはNetSuiteの顧客である中堅・中小企業にとって有用であり、他のクラウド型ERPベンダーとの差別化にも貢献する可能性があるという。このエディションは、製品およびサービスのハイブリッド型販売を手掛ける成長中の企業をターゲットにしており、異なる会計ルールを必要とするビジネスに役立つようだ。
「NetSuiteはこれを高度に統合された単一のシステムとしてまとめており、その点に一定の価値があることは間違いない。むしろ、他の企業が同様の取り組みをしていないことが残念なくらいである」(サマー氏)
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