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SAPの「2027年問題」、メルセデス・ベンツ・グループはどう解決した?【事例紹介】(1/2 ページ)

オンプレミス環境でERPを運用してきたユーザーは、「SAPの2027年問題」にどう立ち向かうか。ビジネス環境の先行き不透明感が強まる中で、変化に迅速に対応するためのIT基盤の実現やAIの活用が喫緊の課題になる中、メルセデス・ベンツ・グループの取り組みを紹介する。

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 世界情勢が緊迫し、ビジネス環境の先行き不透明感が強まる中で、変化に迅速に対応するためのIT基盤の実現や、AI活用は企業にとって喫緊の課題となっている。

SAPの「2027年問題」、メルセデス・ベンツ・グループはどう解決した?

 また、「SAPの2027年問題」と言われる「SAP ERP ECC 6.0」(以降、ECC 6.0)の保守サポート終了(EOS)は、オンプレミス環境でSAP ERPを運用してきたユーザー企業にとって、現状維持からの脱却を迫る大きなテーマだ。

 こうした課題を解決するために、メルセデス・ベンツ・グループが取った選択肢とは。

本稿はSAPが米フロリダ州オーランドで開催した年次カンファレンス「SAP Sapphire & ASUG Annual Conference 2025」(開催日:5月20〜21日)の2日目の基調講演で取り上げられたメルセデス・ベンツ・グループの「RISE with SAP」導入事例の内容を中心に編集部で再構成した。

「GROW with SAP」と「RISE with SAP」はどう違う?

 近年、SAPは「SAP Business AI」ブランドでAIソリューションの開発強化を進めている。顧客のクラウド環境への移行が進まないことには、新機能の価値を実感してもらえない。

 そこでSAPは「S/4 HANA Cloud Private Edition」を中核とする「RISE with SAP」(以降、RISE)と、S/4HANA Cloud Public Editionを中核とする「GROW with SAP」(以降、GROW)という2つのサービスを提供し、顧客のクラウド移行をサポートしてきた。

 GROWが新規にSAP ERPを導入する企業向けであるのに対し、RISEはこれまでのSAP ERPへの投資を保護しつつ、クラウドへの移行を目指す既存のユーザー企業向けのサービスだ。日本企業のほとんどはECC 6.0からの移行ではRISEを選択する。

 その理由は、GROWではアドオンが認められない原則があるためだ。SAP ERPは多くの場合、大規模な改変を加えて導入されるため、コストをかけて作り込んだアドオン資産をどうするのかが問題になる。

 ただし、RISEを選択すれば、アドオン資産をそっくりそのまま移行できるわけではない。移行できたとしても、新しい機能が利用できるとは限らないのがユーザー企業にとって頭の痛い点だ。

 これを解決するのが、アドオンを最低限に抑える「Fit-to-Standard」の方針を採用し、バージョンアップに対応しやすいアーキテクチャーに転換するという手段だ。SAPは、ERPのコアには手を加えず、拡張は周辺部分で行う「クリーンコア原則」を提唱し、ベストプラクティスに基づくロードマップや統合ツールチェーン、エクスパートガイダンスを包括的に提供するサービスパッケージで移行を支援することにした。これがRISEだ。

グローバルで8000社を超えたRISEユーザー

 SAPのトーマス・ザウアーエシッヒ(Customer Services & Delivery)氏(Executive Board, SAP SE)は、「RISEに含まれるツールを効果的に活用し、最大30%の運用コスト削減を実現した企業もある」と語る。

 RISEユーザーはグローバルで8000社を超えたが、「ここで立ち止まるわけにはいかない」とザウアーエシッヒ氏は強調する。というのも、今日のビジネス変化のスピードはかつてないほど速くなっているためだ。おそらく以前のペースに戻ることはないだろう。

 ザウアーエシッヒ氏は、製品だけでなく、製品とともに提供するサービスの改良を通して、顧客がイノベーションを取り入れ、ビジネスプロセスを改善するサイクルをより迅速に推進できるよう支援すると改めて表明した。

メルセデス・ベンツ・グループはクラウド移行をどう進めた?

 今回の「SAP Sapphire」の2日目の基調講演で最も大きく取り上げられたのがメルセデス・ベンツ・グループだ。同グループはIT標準化を推進するために2024年12月、RISEの導入を決定した。同プロジェクトのリーダーを務めたのが、2024年4月にグループCIO(最高情報責任者)に就任したカトリン・レーマン氏だ。

メルセデス・ベンツ・グループのカトリン・レーマン氏(出典:筆者撮影)
メルセデス・ベンツ・グループのカトリン・レーマン氏(出典:筆者撮影)

 最近の世界の自動車業界では比亜迪(BYD)や吉利控股集団(ジーリーグループ)などの中国勢の躍進が目立つ。「100年に一度」と言われる激変期に、デジタル変革のスピードがさらに速くなるのは避けて通れない。

 そこでメルセデス・ベンツ・グループは、SAPとのパートナーシップを強化し、クラウドへの移行を進めることでAIに代表されるイノベーションを迅速に導入できるアプリケーションアーキテクチャーの柔軟性を獲得しようと考えた。

 現在、同社はバリューチェーンに沿って主要アプリケーションをAWSに移行する取り組みを進めている。着手に当たってレーマン氏は最初に、アプリケーション環境の現状を分析した。メルセデス・ベンツ・グループほどの規模の企業になると、スプレッドシートと電子メールに頼った情報収集は現実的ではない。

 前述したRISEの統合ツールチェーンの中には、現状分析のためのツールが2つある。一つはビジネスプロセスを分析し、俊敏性とレジリエンスを高めるための機能を提供する「SAP Signavio」、もう一つはアプリケーション資産を可視化し、ビジネス変革のためのインサイトを提供する「SAP LeanIX」(以降、LeanIX)だ。同グループではLeanIXを使って分析した。

 その結果、メルセデス・ベンツ・グループでは1万以上のアプリケーションが使われていることが分かった。そのうちSAPアプリケーションは約1200に上り、そのほとんどはオンプレミス環境で動くECC 6.0が占める状況だった。

 さらに同グループはLeanIXを使って、グループにおけるアプリケーション資産を「変革」「投資」「移行」「廃止」の4つに分類し、RISEでクラウドに移行すべきアプリケーションを見極めた。SAP以外のアプリケーションについても、“次のレベル”に引き上げる方法を検討している。

図1:RISE with SAPで提供されるツール群(出典:SAPの提供資料)
図1:RISE with SAPで提供されるツール群(出典:SAPの提供資料)

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