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「経営危機やHUEの失敗は過去の話」 ワークスアプリケーションズCEOが語る、AI時代のERP

経営危機とHUEの失敗を乗り越え2023年に営業黒字化を達成したワークスアプリケーションズは新たな成長フェーズに入った。11年越しでAI機能を実装したHUEを核に、全業務でのAI機能の提供、「ゼロオペレーション」の実現を目指す。

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 かつて経営危機、鳴り物入りで市場に投じた次世代ERP「HUE」の失敗という大きな試練に直面したワークスアプリケーションズ。しかし、同社はこれらを乗り越え、ビジネスの新たな局面へと足を踏み出している。

 ワークスアプリケーションズは9月25日、メディア向けラウンドテーブルを開催し、再建後のビジネスの概況、AIを核とした戦略について説明した。

経営危機やHUEの失敗は過去の話 黒字化し新たなフェーズへ


ワークスアプリケーションズ 秦 修氏(筆者撮影)

 ワークスアプリケーションズCEO(最高経営責任者)の秦 修氏は次のように切り出し、ビジネスが新しい局面に入ったことを強調した。

 「経営危機やHUEの失敗などは過去の話。現在は、IDCの調査にもあるように、マーケットで確固たるポジショニングを確保しつつある。加えて、2014年に業界で初めてERPにAIを搭載した次世代ERPである『HUE』のコンセプトを披露し、いったんは失敗したものの、11年後の2025年6月にはAI機能を実装できた。やるといったことをしっかりやっているのが現状のワークスアプリケーションズだ。2023年に営業黒字化して、前進し成長する新しいフェーズに入った。WAP Forward 2.0と呼んでいる」(秦氏)

 IDCの調査とは「IDC MarketScape」の「国内中堅企業向け財務会計アプリケーション市場」においてリーダーに選出されたことを指す。HUEは2022年から稼働実績を積み上げ、3年間で平均79%増(CAGR)、売上は2025年に115億円規模になるなど好調だ。財務も改善し、顧客は500企業グループ2400社に達した他、従業員数も2025年6月に885人となった。「中堅企業だけでなく大企業でもリーダーポジジョンを取れると思っている。国産ベンダーとして、日本のERP市場の在り方をしっかりと示していく責務がある」(秦氏)と意気込む。

 また、これまでの経験を踏まえ「成長、転落、再建を経て、人的資本や製品への期待、会社への信頼を痛感した。こうした無形資産の価値増大を経営の軸として、さらなる深化と進化を目指していく」とし、2024年12月に「存在意義」や「目指す姿」「価値観」を再定義し、それらを製品開発にも落し込んでいると説明した。その中核となるのがHUEだ。

HUEが提案する「実利に即したAI機能」

 HUEの深化と進化については、AIが特に注目ポイントとなる。日本は米国に次いで、アクティビストによる提案が多い市場だ。グローバルで見ても資本効率を高めることが求められている。その際に課題になっているのがIT投資効率だ。

 「日本のIT投資は維持・運用に7〜8割の予算が割り当てられ、変革やイノベーションに対しては2〜3割にとどまる。しかし、最適なIT投資比率がいくらかに対しては専門家でも正解を持っていない。課題と分かっていても目標となる答えがない。なぜこうした状況になっているか。それは選択肢が限られているからだ。ワークスアプリケーションズはかつて、人事アプリケーションでその答えを出したと思っている。HUEで再び答えを出す」(秦氏)

 HUEの価値は基本的には変わっておらず、「ノーカスタマイズ」「無償バージョンアップ」にあるという。ノーカスタマイズとは、標準機能で日本の商習慣に合わせた「Fit to Japan Standard」を実現していること。また、無償バージョンアップによって、インボイス制度や新リース会計などの法対応、AIをはじめとした先進技術なども標準保守内で無償で提供される。これによってTCO(総所有コスト)を削減し、情報投資効率や資本効率に寄与する。

 AI機能の実装は急速に進められており、2025年6月には既に7機能が実装済みだ。目標として、2026年夏までに50機能を実装し、2027年には全ての業務でAI機能を提供することを目指している。価値ある新機能を迅速に提供するため、デリバリーリードタイムの圧縮を進め、AIネイティブな開発支援ツールを活用することで、開発サイクルをさらに高速にする。

 具体的なAI機能は、チャットbotなどの会話型、異常検知や予測などの分析型、エージェントによる自動処理などのプロセス型などがあるが、ワークスアプリケーションズが提供するのは、思考を代替するような「業務代替型」だ。

 「大手企業には大量の業務フローがあり、人の判断をスキップして自動処理することは難しい。そこで、われわれは、全てをAIに任せるのではなく、人の作業が極限までなくなるための設計を実施している。例えば、入金消込みならルールベースの消込みで自動処理し、不一致なものはAIで処理した後、人が承認する。人が承認し続けることをなくすために、AIが判断した理由を設定し、ルールに反映して自動処理する仕組みも提供していく」(同氏)

 最終的にはAIエージェントによる自動処理に持っていくことが求められるが、現状はそこまでの信頼性はないという。例えば請求書を起こす場合に、AIエージェントによる単純な自動処理だけで済むケースは少なく、問い合わせを受け付け、出荷情報を確認したり、注文書を確認したりする必要があるためだ。

 秦氏はAIの取り組みについて「ERPへのAI実装という点では、小粒感、地味に見えるかもしれない。ただ、実利に即したAI機能の実装という点でわれわれは先を行っているというのが自己評価だ。ERPにおけるAIの思考要素は、分析、提案、入力、承認業務の4つが代表的だが、それらをカバーできれば、ほとんど業務をまわせると考えている」と説明した。

人とAIが共創する業務フロー、ワークフローの実現

 目標としては、2026年夏には、主要な業務そのものを「不要」にした「インプットレス・メンテナンスレス」を実現する。また、2027年夏には、対象業務を拡大させ「ゼロオペレーション」を実現する。さらに、次世代HUEでは、ERP導入にもAIを使用し、RFP(提案依頼書)を読み解いてFit & GAP分析を自動化したり、要件定義のドラフトを自動作成したりすることも検討している。実行フェーズでもRPAを組み合わせ、設定・検証作業を70%削減することや、設定・検証のマニュアル自動生成を提供できるようにしていく。

 「AI投資は人的投資だと考えている。AIへの投資を進めながら、人の価値を引き出していく。効率化してコスト削減するだけでなく、さまざまな価値創出していくためのツールとしてAIを活用していく。さらには人とAIが共創する業務フロー、ワークフローをつくっていくことで新たな価値を生み出していく」(同氏)

 最後に秦氏は「成長エンジン」となる4つのポイントとして、コンサルティングサービスを中心にした「Service」、クリティカルワーカーに位置付けられる「Talent」、提供価値を最優先に考える「Tech」、HUEを中心にした「Product」を挙げながら、次のように話した。

 「Service事業で課題を収集し、Talentが本質を追求し、解決策を考える。Techを使ってソリューションを価値に変換していく。最終的にはProductが変革を加速させていく。この流れを成長エンジンとして、企業と個の価値を最大化していく」

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