取締役の4割がAI知識不足 「経営の盲点」をどう解消する:CIO Dive
多くの企業でAI活用が優先課題になっている中、取締役の約4割がAI知識が不足していると回答した。本稿は、この知識ギャップを解消する方法を紹介する。
企業がAIをあらゆる業務プロセスに組み込む動きを加速させる中、取締役会の対応が必ずしも追い付いていないという「経営の盲点」が浮き彫りになった。PwCが2025年10月1日(現地時間、以下同)に公開した上場企業取締役を対象とした調査データは、この深刻なギャップを明らかにしている。
調査によると、取締役の約5人に2人は「自分が所属する取締役会はAIに関する十分な教育を受けていない」と考えている。「自社の取締役会はAIおよび生成AIを監督業務に組み込んでいる」と回答したのは取締役の3分の1強にとどまり、AI時代におけるガバナンスの遅れが明確になった。この課題の対策を担うキーパーソンとは。
取締役会の知識不足をどのように解消すべきか
PwCは今回の報告書の作成に際して、上場企業の取締役600人以上を対象に調査を実施した。同社のガバナンス・インサイトセンターの責任者であるレイ・ガルシア氏は電子メールで次のように述べた。
「AIに追い付いていないのは取締役会だけではない。生成AIやAIエージェントの台頭により、経営陣も取締役会も新たな機能やリスクについて、今まさに学んでいる状況だ。取締役は技術者ではない。しかし、テクノロジーの可能性と限界、リスクを理解した上で戦略的に質問し、経営陣に対して意見を述べる必要がある」
ビジネスの分野に生成AIが登場し、ソフトウェア製品へと広がっていく中で、経営陣は急激な変化への対応が求められた。生産性の向上を目指す企業にとって(注1)、AIの導入は最優先課題となっている。
取締役にとってもAIは最大の関心事だ。シンクタンクであるDiligent Instituteが2025年9月に発表した報告書によると(注2)、取締役のおよそ3分の2は自社における最優先の経営課題としてAIを挙げている。また、取締役のおよそ3分の1は「AIに対する理解を深めるために教育を受けようと考えている」と回答した。
「企業が経営戦略や業務にAIを取り入れる動きを続ける中で、取締役会は影響をより深く理解し、経営陣に対して適切な問いを投げかけながら議論したいと考えている」(ガルシア氏)
ガルシア氏によると、取締役たちが投げかけている質問の一例は次の通りだという。
- AIは事業戦略や顧客との関わり方にどのような影響を与えるのか
- AIはどのようなリスクをもたらすのか。そして、企業は責任あるAIをどのような形で取り入れられるのか
- AIは従業員構成や人材戦略をどのように変えるのか
PwCの報告書によると、AIの導入計画が進行しているにもかかわらず、取締役の5人に2人以上は「AIに関する最大の懸念は、変化のスピードについていけるかどうかだ」と回答したという。
CIO(最高情報責任者)は、AIに関する知見を生かし、経営陣の間でAIへの理解と意識を広げる役割を果たす。その一例が、金融サービス企業であるAlly Financialのサティッシュ・ムトゥクリシュナン氏(最高情報・データ・デジタル責任者)だ。同氏は、AI導入の取り組みを経営陣に深く理解してもらうため、経営執行委員会のメンバーに対して1日かけて研修を実施する計画を立てた(注3)。
「AIに関する取締役会の知識の不足を埋める上で、CIOたちは非常に重要な役割を担っている。CIOは取締役会向けの説明会を開催し、大規模言語モデルやエージェント、責任あるAIの活用、関連するフレームワークなどについての知見を提供できる。また、企業全体でAIの機会とリスクを評価する部門横断的な協議会を通じて、貢献することも可能だ」(ガルシア氏)
ガルシア氏によると、取締役は法務部門やリスク管理部門の責任者をはじめとする他の経営陣と連携し、外部の研修やスキル向上の機会を積極的に活用して、AIに関する専門知識を深めるべきだという。
(注1)Despite AI challenges, CEOs say they are doubling down on investments(CIO Dive)
(注2)A pulse check on AI in the boardroom(Diligent Institute)
(注3)Ally CIO: Pace of tech change ‘weighs on me’(Banking Dive)
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