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話題のAIエージェントを“導入したくない”企業のホンネ 背景にベンダーへの不信感CIO Dive

Gartnerの調査結果によると、多くの企業が完全自律型のAIエージェントの活用を避けているという。背景にはAIベンダーへの“不信感”があるようだ。

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CIO Dive

 調査企業のGartnerが2025年9月30日(現地時間、以下同)に発表した調査結果によると、ITリーダーたちはAIエージェントに対して慎重な姿勢を示しており(注1)、人による一定程度の監視の維持を望んでいるという。調査は、従業員が250人以上の組織に所属するITリーダー360名を対象に実施された。

なぜAIエージェントを導入“しない”のか?

 同調査によると、人の監督を必要としない完全自律型のAIエージェントを試験導入または本格導入しているか、導入を検討しているITリーダーはわずか15%にとどまった。一方、完全自律型ではないAIエージェントを試験導入または既に展開している割合は75%にのぼる。

 ITベンダーが顧客に対してAIエージェントの導入を勧めるようになって約1年が経過したが(注2)、多くの企業は慎重な姿勢を未だに崩していない。背景にはリスクの高さと信頼性の低さという2つの要因がある。

 「自社が取引しているベンダーがAIのハルシネーションに対して十分な防御策を提供できている」と回答したのは20%未満だった。また「自社がAIエージェントを適切に管理するためのガバナンス体制を整えている」と答えたのはわずか13%に過ぎない。セキュリティ上の懸念も広く存在しており、約4分の3のリーダーが「AIエージェントは自社の環境に対する新たな攻撃経路になる」と認識している。

 Gartnerのマックス・ゴス氏(シニアディレクター)は、電子メールの中で次のように述べた。

 「信頼性の欠如の一因はAI技術の発展のスピードにある。多くのAIベンダーがブランド名や料金体系、製品構成を次々と変更しており、企業に不安や不信感が発生している」

 あまりに速い変化に企業は圧倒されており、技術リーダーたちは眠れぬ夜を過ごすほどに頭を悩ませている(注3)。

 ゴス氏は『CIO Dive』の取材に対して次のように語った。

 「多くのベンダーが、十分なガバナンスやセキュリティ機能を整備する前にAIツールやエージェントを次々とリリースしている現状は、信頼構築の面で全くプラスになっていない。長期的に活用でき、拡張性と信頼性に優れたエンタープライズ向けのAIツールを提供することよりも、ベンダーはAIの販売によって得られる短期的な成果を優先しているのではないかと企業が懸念しているのだ」

 情報分析サービスを提供するS&P Global Market Intelligenceが2025年3月に発表した分析によると(注4)、企業がAIを導入している分野として最も多いのはITオペレーションであり、次いで顧客体験関連の業務フロー、マーケティングプロセスとなっている。しかし、AI導入を成功させるのは依然として難しく、2024年と比べて2025年にはAIプロジェクトの失敗を報告する企業が増加した。

 AIの導入をめぐって、IT部門および経営層、実際の利用者の間における意見や認識は必ずしも一致しているわけではない。

 ゴス氏によると、AI導入を成功させるためには、IT部門および事業部門、経営層の3者がAIで解決すべき課題について共通認識を持つことが不可欠だという。同氏はプレスリリースの中で「多くの組織には共通認識が存在しない」と語った。実際に、「AIがどの問題を解決するのかについて自社内で合意が取れている」と自信を持って答えたのは回答者の14%だった。

 最新のAI技術を導入しようとする動きの中で、企業内部に亀裂が生じている。生成AIプラットフォームを提供するWriterが2025年3月に発表したレポートによると(注5)、多くの経営者は、AI技術の導入によってITチームと他の事業部門、さらには経営層と従業員の間に分断が生まれていると感じているようだ。さらに、従業員による反発も依然として導入の勢いを妨げる要因となっている(注6)。

 こうした対立や摩擦はAIの具体的な活用領域の優先順位付けや実装の判断を曖昧にする要因にもなっている。

 ゴス氏は次のように述べた。

 「AIエージェントの活用方法について明確なビジョンを持たない組織の多くは、とりあえずオフィス業務の生産性向上やデジタルワークプレイスの改善といった分野から手を付けがちだ。しかし、それらの領域が必ずしも企業に最大の価値をもたらすとは限らない」

 Gartnerは企業に対して、AIのユースケースを継続的に試行および改善し続けること、そして利用しているツールやそれらを提供するベンダーを定期的に見直すことを推奨している。

 ゴス氏によると、現在主要なAIベンダーは複数モデルの併用や相互運用性を確保するためのプロトコルの採用を進めており(注7、8)、これは「単一のAIモデルや特定のモデル群だけでは企業の多様なニーズを満たせない」という認識が業界全体に広まりつつあることの表れだという。

 「最善の方法はIT部門が事業部門と連携し、組織が抱えるビジネス課題を正確に把握することだ。その上で、どのAIツールが課題を解決できるのかを見極め、成功の指標について合意を形成する必要がある。また、AIツールが自社のデータをどのように処理し、どのように保護しているかを十分に理解し、信頼を持てる状態にしておかなければならない」(ゴス氏)

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