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なぜAI時代に「オンプレ」が復活? 2026年のITトレンドを占うCIO Dive

AI活用が本格化する中で、IT基盤の在り方はどう変わるのか。「AIをもっと活用したい」と願う事業部門と「クラウド費用を削減せよ」と厳命する経営層との板挟みになるIT部門が取るべき“道”とは。

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CIO Dive

 AIブームに後押しされてクラウドへの投資額が増加している。投資額の増加は、企業のITインフラの在り方にどのような影響を与えているのか。調査から浮かび上がった2026年のITトレンドを見てみよう。

なぜAI時代にオンプレ復活? 2026年のITトレンドを占う

 調査サービスを提供するInfo-Tech Research Groupのブライアン・ジャクソン氏(データ分野のプリンシパルリサーチディレクター)は、「CIO Dive」に対して「特定の目的に特化したプラットフォームの多くはAIに最適化されている」と語った。同社は2025年10月7日(現地時間、以下同)に調査レポート「Tech Trends 2026」を発表し(注1)、2026年に向けた8つのトレンドの一つとして、「目的特化型プラットフォーム」を挙げた。

 まだ耳慣れない目的特化型プラットフォームとは何か。AI活用が本格化する時代に注目を集める理由も含めて解説する。

 「Tech Trends 2026」によると、目的特化型プラットフォームのトレンドは、AIインフラのハードウェア層からエンドユーザー向けデバイスに至るまでのITスタック全体に影響を及ぼしている。

 AIインフラのハードウェア層では従来型のワークフローを処理するのに汎用(はんよう)型のGPUに代わり、企業のニーズに合わせてカスタム設計されたシリコンを組み込む「目的特化型」へのシフトが予測されている。その代表的な例がAWSの「Trainium」や「Inferentia」、Google Cloudの「Tensor Processing Unit」などだ。

 同レポートは、デバイスやソフトウェアにおける変化も指摘している。「Windows OS」をはじめとする一般的な商用OSの設計にNPU(Neural network Processing Unit)が追加され、AIの推論処理ワークロードを最適化する動きが進んでいるという。

 同社は、こうしたAI活用を目的としてカスタマイズされた目的特化型プラットフォームへの移行が、IT運用全体に影響を及ぼすと予測している。

 「目的特化型プラットフォームの構造はさまざまな層に活用できる。最下層のハードウェアから開発環境などの最上層まで、あらゆる層で広まるだろう」(ジャクソン氏)

クラウド投資増加が「変化」を後押し

 Info-Tech Research Groupによると、IT部門は、汎用的なインフラに目的特化型プラットフォームを構築し、より優れたユーザー体験を実現しようとしている。特に、クラウド投資が落ち着く兆しを見せていない今(注2)、その傾向が強まる一方だ。2026年にはクラウドコンピューティングへの投資がさらに拡大する見込みだ。同社の調査によると、既に10社中9社がクラウド投資を開始している。

 投資アドバイザリーサービスを提供するTD Cowenによると、クラウドコンピューティングへの投資増加に加え、今後3年間でクラウド予算の3分の1を生成AIに充てる企業は約42%に上る(注3)。また、生成AIのワークロードは、ハイパースケーラーが提供するパブリッククラウドに移行しつつある。そのため、IT部門は高度なITインフラと生成AIワークロードによるクラウドコストの増加に備え始めている。

 ジャクソン氏は「(2026年も)クラウドの重要性はこれまでと同様に高くなるだろう。しかし、目的特化型プラットフォームを前提とすれば、クラウドとオンプレミスを組み合わせたハイブリッド型アプローチが重視されるようになる」と述べた。IT部門がシステムのモダナイゼーションに取り組む中で、ハイブリッド環境こそが、レガシー技術のスタックとAIに最適化された最新のプラットフォームを両立させる手段になるというのが同氏の主張だ(注4)。

 調査企業Forresterのマーク・モッチア氏(バイスプレジデント兼リサーチディレクター)は「2026年に向けて、企業のクラウド支出を左右する最大の変動要因となるのは、AIの導入状況とクラウドの利用形態だ」と述べた。

 「今後あらゆる業界で、AIを試験導入する段階からスケールさせる段階へと移行させ、実際に価値を生み出すためにどう取り組むべきかというプレッシャーが高まる。そのため、AI技術をホスティングするためのクラウド費用が増加するだろう」(モッチア氏)

 モッチア氏は「企業のクラウド支出は、導入するAIの規模に比例して増加する。IT部門は、目的特化型プラットフォームの活用によってコストを抑制できる可能性がある」と指摘した。

 Info-Techのレポートによると、クラウド環境でもオンプレミス環境でも運用できるように設計可能な目的特化型プラットフォームは、企業により高い管理性と制御性をもたらす。データ規制が厳しいEU(欧州連合)では、企業はパブリッククラウドのワークロードをよりローカルな環境に再移管できるだろう。

 Info-Techによると、目的特化型プラットフォームは、AIエージェントを支える基盤としても重要な役割を果たす(注5)。AIの推論を支える専用ハードウェアを提供し、エンドデバイスで稼働するAIエージェントの性能を向上させつつ、クラウドコストの削減にもつながるためだ。

2026年、AI PCは市場の半数以上を占める見込み

 ジャクソン氏によると、こうした戦略の転換が起こる中で、AI PCをはじめとするハードウェアの需要は今後も高まるという。DellやHP、Intel、LenovoなどのPCメーカーは自社製品にAI機能を既に搭載している。ただし、貿易摩擦やマクロ経済における不透明な先行きが影響し、2025年時点における企業のAI PCの導入はやや鈍化した(注6)。Gartnerは、それでも2026年にはAI PCが市場全体の半数以上を占める見込みだと予測している。

 一方、ジャクソン氏は「全ての組織が目的特化型プラットフォームを必要とするわけではない」とも述べている。IT部門は、ITスタックのどの層が汎用的な構成で十分に機能し、どの層が特化型プラットフォームや専用ハードウェアによってより高い性能を発揮できるのかを見極めた上で、最適な投資戦略を立てる必要があるという。

 ITサービス企業であるTEKsystems Global Servicesのテクノロジー・モダナイゼーション部門に所属するアルマンド・フランコ氏(ディレクター)は、「CIO Dive」への電子メールの中で「CIO(最高情報責任者)は一律対応型のクラウド環境から、特定のビジネス目的に合わせて設計された目的特化型プラットフォームに移行しつつある」と述べた。同氏によると、この変化によってCIOは複数のプラットフォームに対して予算を配分しなければならなくなり、クラウド投資の在り方にも影響が出るという。

 同氏によると、金融機関をはじめとする企業は、不正検知や規制報告に特化したプラットフォームへの投資を進めている。「重要なのはパフォーマンスやコンプライアンス、ビジネスの成果という基準に基づいて、各ワークロードに最適な環境を選択することだ」(フランコ氏)

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